明治維新の意味 北岡伸一著

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明治維新の意味

『明治維新の意味』

著者
北岡 伸一 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784106038532
発売日
2020/09/18
価格
1,925円(税込)

書籍情報:openBD

明治維新の意味 北岡伸一著

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 圧倒的な重厚感だ。日本外交史の第一人者にして、元国連大使であり、現在はJICA(国際協力機構)の理事長を務める著者の渾身(こんしん)の力作である。全ての国民、あるいは日本に関心を持つ全ての人々に読まれるべき内容になっている。

 長い間、学界では、マルクス主義的な視点で明治維新を理解する傾向が強かった。その結果、「世界史的な、あるいは比較史的な視点」が不足しがちになった。その限界は、途上国の発展に関する各種会議に出席した際に著者が痛感したことでもあった。そこで著者は、「現代の世界の途上国が直面する課題を念頭に置きつつ」、明治維新の「世界史的な意義」を問い直すことを試みる。

 たとえば、当時のイギリス公使の介入の要素もあり、戊辰(ぼしん)戦争時に西郷隆盛と勝海舟が江戸の無血開城を実現した、焦土作戦が回避されたことの意義は、戦禍にあえぐ今日の中東の状況から想像すべきだ、などと著者は書く。このように端々に、多角的な比較の視点が用いられる。

 著者が驚嘆するのは、日露戦争の時期まで続いた民主化の過程としての「明治革命」のスピードの速さである。それを可能にしたのは、身分は低くても優秀な者が抜擢(ばってき)されて活躍する能力主義の土壌だった。著者は、維新に関わった数々の人々の名前を丹念に明記しつつ、さらに豊饒(ほうじょう)な人物描写で「天才」たちを特筆していく。

 そこで著者が強調するのは、「公議輿論(よろん)」という言葉だ。「公の問題について、堂々たる意見を持つものを参加させる」ことである。世論調査におもねる態度などとは全く違う。これが明治革命の基盤となっていた精神だった。

 現代世界で民主主義は、途上国においてだけでなく、伝統的な民主主義国で、深刻な危機にある。だからこそ、今日あえて明治革命の精神から学ぶべきことがある。本書を通じて、そのことを、われわれは、もっと深く考えていくべきだろう。

 ◇きたおか・しんいち=1948年生まれ。東京大名誉教授。著書に『日米関係のリアリズム』『自民党』など。

読売新聞
2020年11月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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