あの日、ジュバは戦場だった 小山修一著 文芸春秋
[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)
南スーダンに関して、私が知っていたことはごくわずかです。自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に参加中、首都ジュバで「戦闘」とも「衝突」とも言われる事態が発生。「戦闘」の定義が国会で問題になったっけ。
自衛隊のPKO参加について、どういう立場を取るにしても、「戦闘」の定義を抽象的に議論するだけではしかたがない。現地で何があったのか、まずは事実が知りたい。そう思っていた私は、迷わず本書を手に取りました。
著者は、第10次派遣隊の一員として、南スーダンで半年間、PKOに参加しました。現地での出来事がリアルな一人称の視点で語られます。当事者による貴重な証言です。
結論から言うと、ジュバは2016年7月、4日間にわたって、まさしく「戦場」と化しました。政府軍と反政府勢力が銃撃戦を開始、暴徒と化した政府軍は、市民や国際NGO職員らを標的にします。数百人が殺害され、性的暴行と略奪が横行。現地の様子がどれだけ悲惨だったかは、ぜひ本文を読んでください。
自衛隊は、もちろん政府軍を武力で抑えることはできません。本来の任務は、あくまで道路補修などの施設活動です。統率の取れた集団行動によって、隊員にひとりの死傷者も出すことなく、4日間を乗り越えます。
「戦闘地域となった以上、撤収すべきだ」と論じるのは簡単です。でも、反政府勢力が排除された後、首都が比較的平穏になったのも事実だそうです。リスクがあるとしても、それを管理しつつ活動を続けることは許されないのか。著者とともに、読者も悩むはずです。
帰国前、著者らが訪れたジュバの孤児院では、小学校高学年ぐらいの少女たちが「医者になりたい」「弁護士になりたい」と希望を語りました。著者はかれらの夢の大きさを感じます。PKOは何のために行われるのか、それが鮮明に示された一場面です。