生と死を分ける数学 キット・イェーツ著

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生と死を分ける数学

『生と死を分ける数学』

著者
キット・イェーツ [著]/冨永 星 [訳]
出版社
草思社
ジャンル
自然科学/数学
ISBN
9784794224705
発売日
2020/09/30
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

生と死を分ける数学 キット・イェーツ著

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

 がんの検診で陽性と診断された。その検査の感度は90%である。さて、がんである確率はどれくらいか。もちろん90%だろうって? 違う。正解は「これだけではわからない」だ。

 がん検査の感度というのは、がんに罹(かか)っている人をがんだと診断する率に過ぎない。説明は省くが、感度以外に、偽陽性の率や有病率の情報がなければ、この答えはわからない。

 英国の例でいくと、感度が90%である乳がんのマンモグラフィー検査で陽性と診断されたとしても、実際にその人が乳がんを患っている率はわずか10%程に過ぎないのである。

 あぁややこしい、だから数学はイヤなのだ。と、ゆめ思うなかれ。だって、生死に直接関わりはなくとも、こういった知識なしに陽性と診断されたら、かなり心臓に悪いですやん。

 この話をはじめ、統計データに騙(だま)されない考え方や、最善の選択をする方法、ネズミ講が破綻する理由、誤った計算から生じる無実の罪など、知らなければ大損しかねない数学ネタが次々と披露されていく。

 たとえばネズミ講。倍々に増えるというのがいかに凄(すさ)まじい増え方であるかが少しでも頭に入っていれば、引っかかることはないはずだ。そんな話題が満載で、えらく役にたつ。

 この本がさらに面白いのは、数学的な説明がなされるだけでなく、解説が縦横無尽に広がっていくところにある。ネズミ講のトピックからは、核分裂、考古学における年代測定法、原子爆弾の原理、さらには生物時計や細胞分裂へという具合。むっちゃ物知りになれること間違いなし。

 最後の章は、「8割おじさん」で有名になった、感染症における数理モデルの話。新型コロナの時代、これこそ「生と死を分ける数学」だ。

 難しそうと思われるかもしれないが、どれもが小学校高学年なら理解できるような算数だ。転ばぬ先の杖(つえ)、将来、あの時にあの本を読んでおけばこんなことにならなかったのに、などということがないよう、ぜひご一読をオススメしたい。冨永星訳。

 ◇Kit Yates=英バース大数理科学科上級講師。数理生物学を研究し、サイエンスコミュニケーターとしても活動。

読売新聞
2020年11月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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