滅びの前のシャングリラ 凪良ゆう著 中央公論新社

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滅びの前のシャングリラ

『滅びの前のシャングリラ』

著者
凪良 ゆう [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784120053405
発売日
2020/10/08
価格
1,705円(税込)

書籍情報:openBD

滅びの前のシャングリラ 凪良ゆう著 中央公論新社

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

 想像してみる。1か月後、地球に小惑星が衝突して、世界が滅びる。誰のせいでもない、自然の成り行き。自分だけでない、全人類平等に迎える終わり。明日でも、半年後でもない。これまでの日常を過ごすには中途半端に時間があって正気ではいられず、特別な何かをするには時間がなく自らの非力さを知る。想像力が停止する。その時自分は、はたして誰かのことを想(おも)えるだろうか。

 学校でいじめを受けている友樹は同級生の女の子、人を殺(あや)めたヤクザの信士は昔の恋人、恋人から逃げ出した静香は息子を、想う。今までは現実とちゃんと向き合えずに逃げては耐えてきた3人が、「1か月後に世界が滅びる」という、目を逸(そ)らすことのできない巨大な現実を受け止めることになる。残りの1か月の現実をどう生きるか――。

 壊れていく世界というのは空恐ろしい。常識も法も道徳心も無かったことのように、あっという間に、無秩序と混乱は日常となる。パンク状態の病院で、病状が急変し運ばれていく人を見る周囲の表情が痛くもリアルだ。「他人の不幸に心を痛めながら、どこかで自分や身内の幸運を噛(か)みしめている顔」。常に相反するものが同時に巻き起こっている混沌(こんとん)。常識的思考と願望、悲観と楽観、絶望と希望、好意と悪意。ぐちゃぐちゃに混ざる。多くの人々は理性を失って、混沌の渦にのみ込まれていく。

 「強くなるんだ」。向かう結末は滅亡。でも描かれる人物たちは、その中で“自分”を取り戻し、自分たちが“生きる理由”を探し始める。あと1秒だろうがその瞬間まで未来を見つめる姿に、心が強く揺さぶられる。

 本書は、崩壊していく世界で再生していく人々の物語である。著者が書き上げるのに2か月を要したというラスト3ページは、超新星爆発のように物凄(ものすご)いエネルギーを持って、わたしたちに命の煌(きら)めきを放つ。

読売新聞
2020年11月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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