【聞きたい。】崔実さん 『pray human(プレイ ヒューマン)』

インタビュー

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pray human

『pray human』

著者
崔 実 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065202050
発売日
2020/09/30
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

【聞きたい。】崔実さん 『pray human(プレイ ヒューマン)』

[文] 海老沢類(産経新聞社)

崔実さん

 ■沈黙破り、再生する魂

 差別や暴力と闘う在日韓国人少女を描いた『ジニのパズル』で鮮やかなデビューを飾ってから4年。2作目となる本作も「どうしても書かずにはいられない」という熱に満ちている。9月に発表された三島由紀夫賞の受賞は逃したが、選考委員から「もっとも愛された作品」と評された、切実で力のある長編小説だ。

 「読んだ人が自分に語りかけられているような気持ちを抱いてくれたら、すごくうれしい」と話す。

 〈面会に来い〉-。デビュー作が芥川賞候補になった「わたし」のもとに、かつて入院していた精神科の患者仲間から電話がかかってくる。いつも高圧的な態度で病棟を仕切っていたその女性、安城さんは白血病を患い、点滴につながれていた。8年ぶりに再会した彼女に導かれ、「わたし」は封印していた過去の真実を語りだす。

 閉鎖病棟での苦しみと喜び。命を救えなかった親友…。沈黙を破り、言葉を発することで、主人公は傷と向き合い、少しずつ魂を再生させていく。子供時代に受けた性的虐待の挿話は作家自身の体験でもある。「家族や友人にもしゃべったことはなくて墓場まで持っていこうと決めていた話です。私自身、ずっと声を奪われた者だったけれど、完全に奪われたわけじゃないし、負けてもいない。こうして書くことにもちゃんと意味があったんだな、と今はすごく前向きですね」

 人との出会いと絆が辛(つら)い過去の色合いを変える美しい場面がいくつもある。題名の英語も当初の「play(演じる)」から「pray(祈る)」に変えた。

 「この小説の登場人物は人間のふりをしたり、誰かに合わせようとしたりしているんじゃない。自分や誰かの幸せのために祈っている人たちだな、って」と笑みを見せる。「書き終えたときに自分で満足した気持ちになることは一生ないのかもしれない。でもそこを目指して書いていけたら」(講談社・1500円+税)

 海老沢類

   ◇

【プロフィル】崔実

 チェ・シル 昭和60年生まれ。平成28年に『ジニのパズル』で群像新人文学賞を受けてデビュー。同作は芥川賞候補となったほか、織田作之助賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した。

産経新聞
2020年11月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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