『草原の国キルギスで勇者になった男』
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いきなり中央アジアのキルギス いつのまにかなんとかなってしまう
[レビュアー] 都築響一(編集者)
前回の書評で紹介した、世界の納豆を求めてさすらうノンフィクション作家・高野秀行さんもそうとうパワフルな変人だったが、その高野さんをして「こんなにヘンで、こんなに凄い冒険家は見たことがない」(オビ文より)と言わしめたのが、春間豪太郎という冒険家。タイトルが示すように、いきなり中央アジアのキルギスに渡って(単にビザの滞在可能期間が長かったから)、現地で馬を購入して野宿旅を企てる。乗馬経験ゼロだったが、「事前に習得してしまうと冒険ではなくなってしまう」と、あえて不安と未知しか待っていない場所に身ひとつで飛び込んでいく。
著者の言葉どおりそれはまさしく「リアルRPG(ロールプレイングゲーム)」であり、朝が来るごとに悲劇しか待っていないはずなのに、並外れた体力と語学力とコミュニケーション力=ひとたらし術で、いつのまにかすべてがなんとかなってしまう。それはキャッチ系の仕事を通して会得した交渉術や、キックボクシングジムに通って磨いた護身術のおかげでもあるけれど、苦難の中にも全編に漂うお気楽ムードは、なんだか植木等の映画の国際的現代版を見ているような……しかもぜんぶ実話だし!
冒険というと、ひとりぼっちで人跡未踏の地に挑んでいくイメージがあるけれど、春間さんが好んで挑戦するのは「動物と一緒の旅」。ロバと犬と猫と鶏を連れてモロッコを踏破したり、インコと蟹とヨットで日本一周したり。桃太郎じゃあるまいし!と突っ込みたくなるが、読んでいくうちにだれもが「ここではないどこかへ!」とこころうずくはず。
仕事、人間関係、恋愛……人生のいろんな壁にぶつかってるひとにとって、こんなに魅力的で危険な本はない。読み終わるころには「そのうちなんとかな~るだ~ろ~う~」という植木等の歌声が脳内ループ。知らないうちにニコニコ顔になっているはずだ。