国家と個人がテーマの骨太ファンタジー全4巻 毎巻「そうきたか」の連続

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書籍情報:openBD

国家と個人がテーマの骨太ファンタジー全4巻 毎巻「そうきたか」の連続

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 沢村凛の新作「ソナンと空人」は全4巻の骨太なファンタジー。これがもう、予測のつかない展開で一気に読ませる。

 第1巻は『王都の落伍者―ソナンと空人1』。将軍の息子ソナンは素行の芳しくない放蕩者だが、ある時、川に大金を落とし思わず飛び込んだところ、気づけば雲の中に。そこにいた空鬼(そらんき)の気まぐれで見知らぬ国に落とされる。空人(そらんと)という名前を与えられ、国家の中枢とかかわりを持つが……。

 と、あらすじを説明すれば未熟な主人公が異世界に転生し第二の人生を歩む物語、と想像できるしそれは間違いでもないのだが、決して人生が簡単にリセットできる話ではない。第2巻『鬼絹の姫』、第3巻『運命の逆流』、第4巻『朱く照る丘』と、毎回「そうくるのか!」と驚きの連続だ。

 どの巻にも共通するのは国家と個人というテーマ。ソナン(空人)は時に治める側として民衆や隣国と折衝し、時に違う立場から(ネタバレを避け具体的には説明しない)、権力というものと向き合っていく。

 この新たな代表作同様、沢村凛のファンタジーは国家や政治が重要なモチーフとなっている。たとえば『黄金の王 白銀の王』(角川文庫)は、かつて王が産んだ双子が権力を争って分断、氏族同士の争いが長らく続く世界が舞台。やがて一人は王に、一人は囚われの身となった後継者同士が、対立ではなく共闘を選択。しかしそれは茨の道だ。お互いや反発する周囲との政治的な駆け引きや、胸の底にくすぶる相手の氏族への憎しみにどう決着をつけるのか、その葛藤で読ませる。

 ポリティカルな要素のあるファンタジーといえば阿部智里「八咫烏(やたがらす)シリーズ」も。『烏に単は似合わない』(文春文庫)から始まる第1部は全6巻。烏が人間に姿を変えて暮らす山内の世界が、朝廷や武官養成学校などさまざまな角度から描かれ、やがて一族は大猿との死闘を展開。今年、第2部第1巻『楽園の烏』(文藝春秋)が刊行されたが、第1部で描かれた細部が鮮やかに回収され、山内の国家としての在り方を考えさせる内容になっている。

新潮社 週刊新潮
2020年11月26日初霜月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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