Au オードリー・タン アイリス・チュウ、鄭仲嵐著 文芸春秋

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Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔

『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』

著者
アイリス・チュウ [著]/鄭 仲嵐 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163912868
発売日
2020/09/30
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

Au オードリー・タン アイリス・チュウ、鄭仲嵐著 文芸春秋

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

 「十(とお)で神童、十五で才子、二十歳すぎれば…」ではなく、さしずめ「十で神童、二十歳で天才、三十五歳でIT相」といったところだろうか。新型コロナ対策で一躍時の人となった台湾のオードリー・タン。その生い立ちやIT界での大活躍、そして想像を絶する能力に心底驚かされた。

 小学校になじめなかったタンは、家族と共にドイツへ渡る。帰国して中学校に通いながら、大学の講義を聴講し、膨大な書物を読んだ。

 凄(すさ)まじい才能の持ち主は「教科書の知識は、インターネットより10年遅れている」と、高校へは進まなかった。小学校低学年から独学で始めたプログラミングで頭角を現し、16歳で実業界に乗り出す。そしていくつもの成功を収め、生活に困らないだけのお金ができた30歳過ぎには公共の利益に時間を使うと決意する。

 10代からジェンダーに違和感があり、24歳で「彼」は「彼女」になった。両親は「それで人生がより幸せになるなら、私たちは必ず応援する」と語り、友人たちもすんなり受け入れた。

 タンは何よりも透明性を重視する。人の期待に応えて行動するのではなく「自分のしたいことをして、自然と人を引き付けてしまう」ような人柄。さらに、性格は温和でユーモアにあふれ、「弱い人の気持ちに寄り添う」人でもある。もって生まれた資質だけでなく、両親をはじめ周囲の人たちにも恵まれたように見える。しかし、それもタン自身の能力と魅力ゆえだろう。

 台湾での民主主義のあり方、政府の人材登用システムにも驚かされた。いくら優秀な人物でも、たった一人で新型コロナ対策にどれだけの貢献ができるのか。ずっと疑問に思っていたのだが、台湾のシステムとこの人なら話は別だ。

 何よりすごいのはその読書法。400ページの書類を読まねばならぬ時、パラパラっとめくって眠る。すると、朝起きたら読み終わっているらしい。ホンマですか……。いやはや、ここまできたら何と評していいかすらわかりませんわ。

読売新聞
2020年11月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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