杉本博司著 「江之浦奇譚」

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江之浦奇譚

『江之浦奇譚』

著者
杉本博司 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000223072
発売日
2020/10/10
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

杉本博司著 「江之浦奇譚」

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 光を浴びて佇(たたず)むのは、写真から建築まで現代美術作家として世界に名を轟(とどろ)かせる杉本博司だろうか。著者渾身(こんしん)のアート施設・江之浦(えのうら)測候所を巡る44話に酔いしれる。

 「死と再生を意識させる」冬至の朝に陽(ひ)の光を通す70メートルのトンネルを作る。夏至にも百メートルのギャラリーに日の出が差し込む。神奈川県小田原市のこの場所では季節を測る。

 自作や茶室、神社に舞台、ニューヨークでの古美術商を経て憑(つ)かれるほど執着する石が並び、人類全体の歴史をも作家は始造する。その企(たくら)みは、幼き思い出の地・相模湾沿い斜面で見事に現(うつつ)となる。

 「頃難(コロナ)」で人は死滅しても建築は廃墟(はいきょ)として残る。杉本の嘯(うそぶ)く声が聞こえるのは夢ではない。魅惑が人を食う。

 写真家に飽き足らず、より嘘(うそ)っぽい演劇に惹(ひ)かれた彼はそこでも評価を高める。自らの装丁と連歌の導く奇妙な話は、測候所と自身を浮きぼりにし、永遠未完の芝居として眩(まばゆ)い魔力を放つ。(岩波書店、2900円)

読売新聞
2020年11月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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