足りないものを埋めるため捻くれているけど、別に…

レビュー

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愛されなくても別に

『愛されなくても別に』

著者
武田, 綾乃, 1992-
出版社
講談社
ISBN
9784065205785
価格
1,595円(税込)

書籍情報:openBD

足りないものを埋めるため捻くれているけど、別に…

[レビュアー] 江口直人(芸人)

 かわいこちゃん二人が並ぶカバーイラストに惹かれてジャケ買いした本書は、俺にとって至高の会話劇だった。家族の愛という鎖に縺(もつ)れてふらつきながら、必死で生きる女子大生の物語。すごく、すんごく面白かった。なによりも、今時の女子大生が今時の言葉で紡ぐ今時の会話が、まあとにかく、美しいのです。

 派手な生活を好む母に翻弄され、コンビニのバイトで学費稼ぎに精を出す主人公の女子大生、陽彩(ひいろ)と、家庭環境の悪さから身体を売って生きてきた凄まじい人生遍歴を持つ江永。大学もバイト先も同じだけど、性格は真逆の二人。憎まれ口と軽口とジョークで織り成される二人の会話は、シンプルを通り越して、雑で言葉足らず。なのにすべての台詞に、見えないようそっと大切な本音が隠されている。言葉にはされない言葉によって、二人の会話は成立していて、茶化し、突き放すほどに、心の熱を感じてしまう。倒れてしまいそうな痛みを見せないように、とっても素敵に、捻くれている。タイトルもそうだ。「愛されなくても別に」。捻くれている。

 陽彩と江永以外にも、コンビニの同僚で、優秀な弟への劣等感を抱く冷めたチャラ男の堀口や、母親の過剰な愛から逃れるために新興宗教にハマってしまう木村など、登場人物のほとんどが、思い切り捻くれている。それは必然であり、みんな、捻くれることによって、やってらんねえこの世界とのバランスをとっている。正しいかどうかじゃなく、それは強さなのだ。

「愛されなくても別に」。親であろうが、兄弟、友達であろうが、愛されなきゃいかんのか? そりゃ愛されたいさ、どうしようもなく。でも、だけど、愛されなくても別に。だって、愛されなくても生きていかなきゃならんのだから。「別に」は強さなのだ。俺だってそう。シモネタばかりの芸人だけど別に。君だってそう。面接受からなかったけど別に。完全に遅刻だけど別に。チンコ小さいけど別に。みんな、そうやって捻くれて、足りないものを埋め合わせているのだ。

 この本は、まったくの他人事のように素っ気なく、よそよそしく、俺に勇気をくれた。捻くれててもさ、生きていればまあ、そのうちなんか、愛的な? 絆的な? そういうやつに巡り会ったりもするんだと思う。捻くれててもいいんだよ、そうだよね、うんっ! 俺はそう思った。

 本当に素敵なこの本の素晴らしさを、果たして俺は伝えられているのだろうか。最初から読み直してみる。うむ。全然文章まとまってなくても別に。

新潮社 週刊新潮
2020年12月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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