戦争時代の若者を強くひきつけた三島が愛した詩人

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伊東静雄詩集

『伊東静雄詩集』

著者
伊東 静雄 [著]/杉本 秀太郎 [編集]
出版社
岩波書店
ジャンル
文学/日本文学詩歌
ISBN
9784003112519
発売日
1989/08/16
価格
726円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

戦争時代の若者を強くひきつけた三島が愛した詩人

[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「三島由紀夫」です

 ***

 以前、島尾敏雄が遺した蔵書を見る機会があった際、三島由紀夫の署名がある献呈本を何冊か見つけた。

 二人は1946(昭和21)年創刊の同人雑誌「光耀」のメンバーだった。作風の違いから意外な感じがするが、この雑誌の陰の立役者は詩人の伊東静雄で、彼に心酔する青年が集まってスタートしたのだった。

 伊東の詩を少年時代から愛読していた三島は戦時中、処女出版『花ざかりの森』の序文を伊東に頼んで断られている。このとき三島と初めて会った伊東は日記の中で「俗人」「(三島からの手紙は)面白くない。背伸びした無理な文章」などと記している。

 いま伊東の詩を読めるのは岩波文庫の『伊東静雄詩集』くらいだ。

〈八月の石にすがりて/さち多き蝶ぞ、いま、息たゆる。/わが運命(さだめ)を知りしのち、/たれかよくこの烈しき/夏の陽光のなかに生きむ。〉(「八月の石にすがりて」より)

 血気にはやる勇ましさとは異なる透明な抒情をたたえた伊東の詩は、戦争の時代に青春を生きた若者たちを強くひきつけた。

「俗人」と書かれた三島だが、20年以上たった66(昭和41)年、『新潮』で愛誦詩一篇を求められ、伊東の「燕」という詩をあげてこう書いている。

「俺が声のかぎりに叫んだ場所であの人は冷笑を浮べて黙ってゐた」「生きのびた者の特権で言はせてもらふが、あの人は一個の小人物だった。それでゐて飛切りの詩人だった」

新潮社 週刊新潮
2020年12月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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