大林宣彦が明かした自作への思い~「自分の映画には常に戦争が出てくる。そして必ず生者と死者が同居している」

インタビュー

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A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る

『A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る』

著者
大林宣彦 [著]
出版社
立東舎
ISBN
9784845635412
発売日
2020/10/22
価格
3,520円(税込)

書籍情報:openBD

大林宣彦が明かした自作への思い~「自分の映画には常に戦争が出てくる。そして必ず生者と死者が同居している」

[文] 立東舎

2020年4月10日に惜しくも逝去した映画監督の大林宣彦。商業デビュー作の『HOUSE/ハウス』がいきなりヒットし日本映画界に新風を巻き込み、その後も自由な作風を崩すことなく作品を撮り続けた驚異の作家だ。そんな大林が全自作を語り尽くした書籍『A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る』(立東舎)が、2020年10月22日に刊行された。取材回数は20回を優に超え、総ページ数も760ページと、大林作品同様に「脳が追いつかない」書籍となった本書では、その創作の秘密があますところなく語られている。取材・編集を担当した馬飼野元宏氏に、本書の企画立ち上げから完成までの裏側を伺うことにした。

1980年代の作品と2010年代の作品は、らせん状に繋がっている印象

――そもそもどのような経緯で、本書の企画はスタートしたのでしょうか?

馬飼野 僕は長年、映画雑誌『映画秘宝』の編集部にいるのですが、その編集部があった出版社(現在は別の版元から発行)で、2015年に『完本 市川崑の映画たち』という書籍を編集したんです。これは森遊机さんが90年代に出された書籍の完全版で、森さんとも、市川監督の事務所ともお仕事でお付き合いが多かった縁で、同書を、僕含め3人がかりで編集して世に出しました。

 この本はまさに一問一答形式で、市川監督の全作品について話を聞くというスタイルをとっていて、その後多くみられる映画監督のキャリア総括書の基本スタイルになった本でした。それで、「自分がこういう本を作るとしたら誰だろうな」と漫然と考えていて、大林宣彦監督しかいないだろう、と思い当たったんです。

 大林監督とは『映画秘宝』で何度もインタビューさせていただいたのですが、新作の発表以外にも、雑誌やムックのいろいろな企画でご登場いただいたこともあり、また実のところ僕自身が「商業映画デビュー作からずっと作品を観てきている映画監督」というと、大林監督が最初の監督になるんです。

 これまでにも大林監督が自作を振り返るスタイルの書籍は何冊が出ているのですが……というか、大林監督は出版点数がすごく多い映像作家なんです。だけど、2000年代以降の作品まで網羅されているものはなくて、最新作まで全部の作品を、今の心境で語っていただけたら面白いのではないか、と思ったんです。例えば1980年代の作品と、2010年代に作られた作品は、らせん状に繋がっている印象がありました。そのあたりのトータルな線が描けるのでは?と思い、監督にお話を持ち込んだら、大変喜んでくださって、企画がスタートしました。ちょうど2017年に『花筐/HANAGATAMI』が公開されることもあり、当初はそのタイミングで出す予定でしたが、延びに延びてしまい、そのうち版元がなくなってしまい、困惑していたのですが、立東舎さんから今回、無事発行できることとなりました。

――大林監督への取材時期と、おおよその取材回数を教えてください。

馬飼野 取材は2017年の1月にスタートして、最後が同年の9月ごろであったかと思います。ちょうど『花筐/HANAGATAMI』の仕上げ段階の頃です。取材は僕と秋場新太郎君の2人体制で行いました。月に2回ぐらい、監督の体調を鑑みつつ、それでも1回の取材は2時間の予定でお願いしていたのですが、絶対に3時間オーバーになる。大林監督のインタビューは大体いつもそのくらいですが、3時間を超えると恭子プロデューサーがやってきて「あのー、そろそろ……」と言われてしまいます(笑)。取材回数はおそらく20回を超えていたかと。大体1回につき3~4作品を聞くよう予定しているのですが、『HOUSE/ハウス』の時はいきなりこれ1作で1回分使ってしまいました。『転校生』もこれ1作で1回分でした。

 取材場所は基本、成城にある大林監督の事務所・PSCで行いましたが、時には監督のご自宅にお呼ばれして、監督の書斎でインタビューを行ったり、一度、検査入院されていた大学病院の病室にお邪魔したこともあります。思えばあれだけの巨匠を一定期間、ほぼ独占して取材してしまったので、あとから考えるととんでもないことをしたな……と思ってはおりますが。

本書の目次より。10章に分けて、大林監督が全作品を語り尽くす。第11章は詳細なフィルモグラフィなどを収めた資料編

「過去の名作へのオマージュ」をわかりやすく伝えるために考えたこと

――取材にあたって心がけていたことはありますか?

馬飼野 どの作品もすべて共通して「これだけは聞こう」と思っていたのが、映像技法とキャスティングについてです。映像技法に関しては、例えば『時をかける少女』の逆ズームとか、『ねらわれた学園』でオプティカル合成を13本かけたとか、『あした』で本物の船を沈めたとか、明らかに目立つものはもちろんですが、意外にオーソドックスで地味な印象の映画にも、監督は何かしら新しい技法を使っているんです。例えば『告別』のように、一見、地味な作品が当時まだ実験段階だったハイビジョン撮影を駆使したものであったりと、1作ごとに新しいことをやっていて、さらに過去に実験した方法も足し算されている。毎回ドキッとする映像がどこかしらに組み込まれている。『三毛猫ホームズの黄昏ホテル』もセットを半分にして2つ分のシチュエーションを作ったとか、そんなの観ていてもわからないですよね。

 キャスティングについてですが、大林映画って、「大林組」といわれる常連の出演者が常に何人もいるんです。峰岸徹さん、入江若葉さん、根岸季衣さん、岸部一徳さん、尾美としのりさんなどなど。近年だと窪塚俊介さんや寺島咲さん、常盤貴子さんなどですね。特に初期から出ている人は、1作目から順に話を聞いていけば、1作ごとに当然違う役柄を当てて、その役者の幅を広げて成長させていくといったストーリーが見えてくるんじゃないか、と思ったんです。「あ、ここで主役に配したんだ」「ここで本来の持ち味と真逆のことをやらせているな」とか。そうやって読んでいくと『私の心はパパのもの』で尾美さんと根岸さんのベッドシーンに出会ってしまい、仰天するわけです。『転校生』『時かけ』で中学生だった尾美さんと『時かけ』の先生だった根岸さんですからね。ベンガルさんって死んじゃう役が多いな、とか、大林映画ってそういう面白さもあるんです。あと、そんなに出てない大物俳優でも、他の映画と全然違うキャラクターを演じることが多い。『女ざかり』の三國連太郎さんの中年萌えキャラとか、他じゃ絶対あり得ない。『天国にいちばん近い島』のようなアイドル映画に、いきなり大女優の乙羽信子さんが出てきたり。だから「どうしてこの役者をこの役に起用したのか」は、非常に興味深いですよね。

 映像技法にしてもキャスティングにしても、過去の名作へのオマージュになっていることが多いんです。『姉妹坂』でイマジナリーラインをぶっ壊した演出をしているのは小津安二郎的な手法とか、『彼のオートバイ、彼女の島』で田村高廣さんをキャスティングしているのは、田村さんに父・阪妻をやってもらうためだったとか。要は大林監督が過去の映画からいろいろな引用をしていることを、最もわかりやすく伝えられるんじゃないかな、と思ったんです。

 監督がいつもお話しされていたのは、自分の映画には常に戦争が出てくる。そして必ず生者と死者が同居している、ということでした。そこも外さずに聞いています。

――書籍のコンセプトはどのように考えましたか?

馬飼野 ひとつは、「どの作品から読み始めても大丈夫なように作る」という形をとっています。必ずしも1ページ目から読み始めなくても理解できる作りになっています。もちろん、掲載された全作を観ている方も多いと思いますが、では好きな作品は?となると、それぞれ違うでしょうから、自分の一番好きな作品から読んでもいいし、途中で観ていない作品のことは後回しにして、観てから読もうという方もいると思ったので、そういった形式が可能なように、1作品1項目にしています。

 もうひとつは、裏テーマですが、取材方法を「大学生が大学教授に講義を聞いている」という体裁で行っています。そのことは監督には申し上げなかったのですが、「まず講義を聞く=監督のエピソードを開陳していただく」、次に「質疑応答」という形をとっています。映画を観ていて「これ、どうやって撮影したの?」とか「このセリフの意味は何?」とか「このスタッフは誰?」とか、観ていて引っかかる疑問点は全部聞くようにしました。『時をかける少女』の深町君の部屋はどうして中二階みたいな造りなのか、とか、不思議なところがどの映画にもいっぱいあるので、逐一聞いているんですが、これはファン目線でもあり、学生が教授に質問している状態でもあります。

中面の見本(『ねらわれた学園』)。脚注も充実している

作品遍歴を1作ずつ取り上げて展開していく構成

――おふたりの細かい質問にも、大林監督は丁寧に答えられていたのが印象的でした。取材時の印象的なエピソードなどありましたら、教えてください。

馬飼野 大林監督は、現場では厳しい姿もあると聞きますが、取材の席では取材者に対しては大変穏やかなんです。その中で、たまに意外な表情をお見せになることがありました。『漂流教室』について伺ったとき、「どう作っていいのかわからなかった」と正直にお話しされていました。「僕の勉強不足、力量不足でした」と。物凄く正直な回答だなと思いました。ほかにも『あした』の初日の客入りが良くなかった、評判も悪かったと仰っていて、「なんでだろうねえ」って問われてしまい、こちらも正直に答えちゃっています。ときどき逆質問が来るんです、それが緊張しましたね。

 あと、監督が検査入院されている病室を訪れた時、監督はお手洗いに行っていらしてご不在だったんですが、ある映画のシナリオが病室の簡易テーブルの上に置かれていたんです。お戻りになられたときに「このシナリオは?」と伺ったら、「いや、次の作品の参考にね……」なんておっしゃっていましたが、僕らがその時間、その部屋を訪れることはご存じだったはずなので、あれはヒントなのかなあ……と思っていたら、その「次の作品」である『海辺の映画館』にちゃんと反映されていたので、まいりました。

――そのシナリオは気になりますね。ところで第7章「回想~個人映画、コマーシャルの時代」を除けば時系列に沿った構成になっていますが、取材はいわゆる「順撮り」で行われたのでしょうか?

馬飼野 すべて順撮りです。キャストの話や映像技法の話など、順番に聞かないと成立しないので。

 本来ならば生い立ちから順に聞いていくのが常道ではあるのですが、あえて本書では商業映画第1作の『HOUSE/ハウス』からスタートしています。これは狙いがあって、監督の人生を追っていくというよりは、その作品遍歴を1作ずつ取り上げて展開していく構成を考えておりました。ただ、大林監督の場合、『HOUSE/ハウス』以前に既に自主映画作品が何本もあり、同時にCMクリエイターとしてもご活躍されていたため、生い立ちから進めていくと、商業映画作品に到達するまで数十ページを費やしてしまうこと、加えて自主映画とCMの2本立てで凄まじい数の仕事をされているので、そこまでで読者には膨大な情報量となってしまい整理しきれないのでは、という懸念があったのです。加えてCMのお仕事は商業映画デビュー以降も続けていらしたこともあり、これは別項でまとめたほうが良いだろう、と考えてこういう形になりました。監督は当初、戸惑っておられたようですが、結果としてこの形で良かったと自分では思っています。

 自主映画作品とCM作品をどこに配置するかは、かなり迷ったのですが、2000年代に入って、大林映画が新たなフェーズに入ったという認識があったので、2000年代のアタマに置くことにしました。なぜなら、自主映画とCMの時代の大林監督は物凄く尖った、先鋭的な映像作家だったんです。そして2000年代以降、「大林宣彦は決して、甘く優しい性善説に則った映画ばかり作っている作家ではない。実は強烈にアバンギャルドな作家なのだ」という、新たな視点による再評価が批評家やファンの間でも高まりつつあったので、最も前衛的だった時代の仕事をこの位置で読んでもらえると、観客でもある読者が得心できるのではないか、という考えです。それが上手くいったかどうかは、読者の方々の判断に委ねたいと思いますが。

――とても成功していると思います。ところで監督の原稿チェックは、どのようなものでしたか?

馬飼野 これまでに何度も取材原稿のやり取りをしてきたので、心得てはいたのですが、校正は元の文章より、間違いなく増えます(笑)。何回も監督は校正されておりますが、注釈にも監督の校正が入っています。こちらでも裏取りはしているので、監督に整合性を問い合わせたり、と、こういったインタビュー本の常識的な作業は、普通に行っています。

随所に『海辺の映画館』の構想のヒントが隠されている

――本書には36人もの関係者が寄稿されているのも大きな特徴です。まさに多くの人を巻き込んでいく大林映画のような作りですね。

馬飼野 「私の好きな大林映画」と「大林監督への質問」という項目は、監督のご提案でした。「僕が一方的に喋っているのでは飽きるだろうから、僕と僕の友人たちとの往復書簡みたいな形を入れたらどうだろう?」と仰るので、結果的にこれで書籍全体を豪華にしていただき、批評的な視点も入ることによって多角的なものになったと思っています。こういったアイデアひとつとっても、やはり映画監督というのは全体を見る能力に長けているのだと思いました。頭が上がりません。

 人選は監督のご推薦と、編集部側でご提案させていただいた方でまとめました。

 実は、最初の校正を寄稿者の皆さんにお送りした際、Q&Aの質問部分だけを校正していただいたので、寄稿者は監督の回答部分を知らなかったんです。ところが、前述のように作業が中断している間に監督がお亡くなりになってしまい、最後の校正を寄稿者の皆さんにお送りした際は、監督の回答部分が載った状態のものになっていました。これは偶然のことでしたが、寄稿者の方たちはびっくりされたようです。亡くなられた方からのお手紙が届いたようなものですから。こちらの作業の遅れで申し訳ないと思う気持ちは変わらないのですが、「これもまた大林マジック」と解釈してくださって、恐縮しきりです。

「私の好きな大林映画」には、36名の方々が参加。「大林監督への質問」に監督が答えるという趣向も凝っている

――遺作となった『海辺の映画館』だけは監督の取材が間に合わずに大林恭子プロデューサーのインタビューが掲載されていますが、『海辺の映画館』のアイデア自体については監督自身の言葉が本書に残されていました。かなり早い段階で、『海辺の映画館』は構想されていたのでしょうか?

馬飼野 取材の後半には既に『海辺の映画館』の第一稿が上がっていまして、少しだけ見せていただいたのですが、その時のタイトルは『戦争映画とさくら隊』でした。当然その前から監督の頭の中には構想があったと思います。

 最初の取材で『HOUSE/ハウス』のことを聞いている際に、岡本喜八監督と市川崑監督がそれぞれATGで作った自主に近い映画の話をされているんです。岡本監督は『肉弾』、市川監督は『股旅』です。で、その2作品の要素は、どちらも『海辺の映画館』に投影されているように思います。『肉弾』は太平洋戦争の戦禍で犠牲となった女学生と、戦争への怒りを二十何年も抱え続ける青年の話ですし、『股旅』は男3人組の話ですよね? 『海辺の映画館』の主役の3人って、イメージ的には『股旅』の3人が重なりますよ。大林監督って、これまで男性3人組が主人公の作品ってなかったですから。

 つまり、最初から『海辺の映画館』のヒントがあるんです。その時はもちろん、僕らは知る由もなかったですが、他にも随所に『海辺の映画館』の構想のヒントが隠されています。

 『海辺の映画館』については、もちろん当初、監督に取材を申し込んでいました。短時間ならできるかも、という話もあったんですが、やはりご病気が進行していて、結果的には叶いませんでした。でも、恭子プロデューサーにそこを引き継いでいただき、感謝しています。『海辺の映画館』は、大林監督の自分史ですよね。自分の集大成を撮る、ということは覚悟がおありだったのだな、とわかりますから、それをご本人が語りそれを聞いて紙面に残したとしたら、読み手にとっても辛い内容になってしまったかもしれません。もちろんまだまだお元気でしたら当然伺っていたはずですが、結果的に恭子プロデューサーの俯瞰した視点で語っていただけたことで、いい形でまとめられたと今は思っています。

――常盤貴子さんは『海辺の映画館』を「監督の走馬灯」と評しておられました。それはさておき書籍が完成してみてあらためて、大林宣彦という稀有な監督についてはどのような印象をお持ちでしょうか?

馬飼野 類型がない、他のどの映画作家にもない独自の世界ですよね。そして、ずーっと同じテーマを撮り続けた監督でもありました。常に戦争の話を、ほんのわずかでもどの作品にも挿入しているのは、軍国少年だった自身への問いでもあったでしょうし、死者と生者の共生というのも、やはりどの作品にも表れています。究極的には、自主映画時代からずっと、自分のことだけを撮り続けた監督だったのではないでしょうか。

 晩年の作品になるほど情報量が増えて、映画も長くなって、しかも驚くべきはテンポが上がってるんです。普通、どんな映画作家でも、年齢を重ねていくと、その年齢なりの生理的なテンポで映画を作ってしまうので、晩年になるほど作風はゆったりしていくんですが、大林監督は逆なんです。『海辺の映画館』なんて80歳過ぎた監督の作品とは思えないテンポと情報量ですから。

 あと、大林監督は日本映画界の撮影所システムがなくなった時期に、商業映画の世界に入っています。そして、大林組という常連スタッフとキャストを抱えて、「ひとり撮影所システム」をやっていた方なのではないかと。東宝の特撮映画や「社長」シリーズ、東映のヤクザ映画などで、毎回おなじみの役者がいろんな役で出てくるのと同じことを、1作ごとにスタッフ・キャストが離合集散するのが当たり前になった80年代以降の日本映画界でやり続け、とうとう最後まで「ひとり撮影所システム」を貫いたなと。皆さん、「瀬戸内キネマ」という映画会社の専属みたいですよね。

『海辺の映画館』については、大林恭子プロデューサーのインタビューを掲載

大林映画には1本たりとも「普通の映画」はないです

――そんな馬飼野さんですが、これから大林作品に触れてみようという方にはどの作品をお薦めされますか?

馬飼野 1本も観たことがない人って……いるのかな(笑)。でもそれならやはり『HOUSE/ハウス』ではないでしょうか。大林作品って、未見の方にもある種のイメージ、先入観があると思うんですよ。それは尾道三部作に象徴されるようなもの。少年少女の甘酸っぱいファンタジーを、古めかしいキャラで、お行儀のいい言葉遣いで描いているような。でも、最初そういうものだと思って入ってみると、他の作品があまりにも違い過ぎて仰天すると思うんです。といって最初から『野のなななのか』とかを観ても情報量が多すぎて何が何だか(笑)。なので、とりあえずは『ハウス』で耐性をつけていただき、あとはランダムにどれを観ても大丈夫かと。

 もちろん最初から毒気の強い作品にあてられて、アレルギーになってしまう怖れもありますが。でも、大林映画には1本たりとも「普通の映画」はないです。実は『時かけ』も凄く残酷な話だったりしますよね。ユーミンが書いた主題歌にあるようにヒロインは時間の「さまよい人」になっている話ですから。

 あるいは、テレビ作品から見ていく、という手もあります。『私の心はパパのもの』『彼女が結婚しない理由』とか『告別』、そして『三毛猫ホームズ』の2部作などは、凄くウェルメイドな2時間ドラマになっています。スリラー好きなら『可愛い悪魔』とか。テレビは時間の尺が決まっていて、民放ならCMを入れる箇所もある。そういう制約の中で撮ることが、大林監督は非常にお得意なんです。それは書籍の中でも語っていますが、ドラマ作品のメイキング話は、映画作品とはまた違う面白さがありました。「なるほど、そのように作るのか」と腑に落ちる点が多数あり、やはりそこはCM作家としての力量が存分に発揮されているのでしょう。ただ『麗猫伝説』だけは映画以上に映画的なので、こればかりはビリー・ワイルダーの『サンセット大通り』を観てからのほうが面白いです。

 自分がどの年齢で観るか、というのもありますね。意外に40代以上になって『転校生』や『時をかける少女』を観ると、やや古めかしい言い回しがノスタルジックに感じられて、「古めかしく作ったものは古びないのか」と改めて感じられると思います。

 個人的にお薦めしたいのは『北京的西瓜』『風の歌が聴きたい』『理由』の3本です。『北京的西瓜』は、中国人留学生と船橋の八百屋さん一家の交流を描いた実話の映画化ですが、終盤にある映画的「仕掛け」をしている。感動的な話のはずが、そこでひっくり返ってしまう怖れもあるのに、その「仕掛け」をして、だけどなぜか感動してしまうんです。これが大林マジックの最たるものかと。『風の歌が聴きたい』は、聴覚障害者夫婦の物語ですが、突飛な演出や合成などは一切ない作品で、つまり大林監督は奇をてらわなくても正攻法でヒューマンなドラマを作れる力量がおありなんです。松山善三さんの『名もなく貧しく美しく』の90年代阪のようです。『理由』はサスペンス・ミステリ好きにはおすすめです。宮部みゆきさんの長編小説の映画化で、オールスターキャストで出演者も多いんですが、人間関係が綺麗に整理されていて、しかも謎が解き明かされていくプロセスの語り口も気持ちいいぐらいに見事です。

――ありがとうございます。馬飼野さんの大林映画愛がひしひしと伝わってきますね。では最後に、ほかにも伝えておきたいことやエピソードなどありましたらお願いいたします。

馬飼野 この本は、大林映画を楽しむためのサブテキストのように使っていただけると嬉しいです。また、大林監督は映画評論家としても一流の方で、古今東西の洋画・邦画に精通していて、それを自作に取り入れていますので、過去のいろいろな巨匠・名匠の名作、傑作からB級映画に至るまで、実に多くの監督名や作品名、俳優名が本書に登場します。大林映画からそういった過去の作品群に触れていくのも、一層映画を観る楽しみになると思いますので、そういった形でお読みいただけると、編者としては光栄の至りです。

 ***

著者プロフィール:
大林宣彦(おおばやし・のぶひこ)

1938年広島県尾道市生まれ。3歳の時に自宅の納戸で出合った活動写真機で、個人映画の製作を始める。上京後、16mmフィルムによる自主製作映画『EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ』が、画廊・ホール・大学を中心に上映されジャーナリズムで高い評価を得る。『喰べた人』(63)はベルギー国際実験映画祭で審査員特別賞を受賞。この頃からテレビコマーシャルの草創期に本格的に関わり始め、チャールズ・ブロンソンの「マンダム」、ソフィア・ローレン、カトリーヌ・ドヌーヴなど外国人スターを多数起用、その数は2000本を超える。

1977年『HOUSE/ハウス』で商業映画にも進出。同年の『瞳の中の訪問者』と共に“ブルーリボン新人賞”を受賞。故郷で撮影された『転校生』(82)『時をかける少女』(83)『さびしんぼう』(85)は“尾道三部作”と称され親しまれている。『異人たちとの夏』(88)で“毎日映画コンクール監督賞”、『北京的西瓜』(89)“山路ふみ子監督賞”、『ふたり』(91)“アメリカ・ファンタスティックサターン賞”、『青春デンデケデケデケ』(92)“平成4年度文化庁優秀映画作品賞”、『SADA』“ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞”、宮部みゆき原作『理由』(04)は“日本映画批評家大賞・監督賞”“藤本賞奨励賞”を受賞。東日本大震災を受けた『この空の花-長岡花火物語』(12)では“TAMA映画賞・最優秀作品賞”ほか多くの賞を受賞。最近の作品に、少年少女版『この空の花』として製作されたAKB48のPV『So long! THE MOVIE』(13)、北海道芦別市を舞台にしたふるさと映画『野のなななのか』(14)等がある。『この空の花』『野のなななのか』に続く『花筐/HANAGATAMI』(17)は、余命宣告を受けながら完成させた大林宣彦的“戦争三部作”となる。

『花筐/HANAGATAMI』では、“キネマ旬報監督賞”“毎日映画コンクール日本映画大賞”等多数受賞。2004年春の紫綬褒章受章、2009年秋の旭日小綬章受章。2019年文化功労者顕彰を受ける。最新作『海辺の映画館―キネマの玉手箱』は、2020年7月公開。2020年4月10日逝去。82歳没。死没日をもって従四位叙位、旭日中綬章追贈。

立東舎編集部

立東舎
2020年11月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

立東舎

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