『オードリー・タン 自由への手紙』
- 著者
- オードリー・タン [著]/クーリエ・ジャポン編集チーム [著]
- 出版社
- 講談社
- ジャンル
- 社会科学/社会
- ISBN
- 9784065220955
- 発売日
- 2020/11/19
- 価格
- 1,540円(税込)
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オードリー・タンが語る、仕事やスキルセットから自由になる方法
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
台湾の最年少デジタル担当政務委員(大臣)であり、天才と名高い人物として知られる『オードリー・タン 自由への手紙』(オードリー・タン 語り、講談社)の著者は、「自由」には2種類あると考えているそうです。
まずひとつは「ネガティブ・フリーダム」。それは既存のルールや常識など、これまでとらわれていたことから解放され、自由になること。
つまりネガティブとはいっても否定的な意味ではなく、いわば「消極的な自由」。また、それは自由への第一歩でもあるといいます。
もうひとつの「ポジティブ・フリーダム」は、自分だけでなく他の人も解放し、自由にしてあげること。
みんなが自由になるにはどうすればいいのか、具体的なTo Doを考えること。自分の可能性を力に変え、その力を誰かのために役立てることであるわけです。
「本当に自由な人って、どんな人ですか?」と聞かれたなら、私は「ポジティブ・フリーダムを体現している人」と答えます。
自分が変えたいと思っていることを、変えられる人。 自分が起こしたいと思っている変化を起こせる人。 それこそ、自由な人です。 (「本書を手にした日本のみなさんへ」より)
さらには、ネガティブ・フリーダムを手に入れたのなら、次はポジティブ・フリーダムへと歩みを進めてみてはどうかとも提案しています。それはすなわち、自由をお互いにシェアするということ。
本書ではこのような考え方を軸に、さまざまな物事から自由になるための考え方を述べているのです。
きょうは「仕事」に焦点を当てたChapter4「仕事から自由になる」内の「スキルセットから自由になる」に焦点を当ててみることにします。
AIが怖くない2つの理由
少し前、「今後、人間の仕事はAIやロボットに取って代わられるのではないか」という予測が話題となりました。
そこに危機感を覚えた方も少なくないようですが、著者はAIが脅威であるという論調については懐疑的なのだそうです。それには、以下の2つの理由があるのだとか。
1. テクノロジーで労働力を補うことができる
2. テクノロジーは認知労働も供給しうる
(140ページより)
労働力が足りない、つまり労働の「量」が求められているのであれば、工業ロボットの助けは有効なものになるはず。
人を集め、働き続けてもらうのは大変かもしれませんが、ロボットであれば、短時間で何台も確保できるのですから。
しかも人間が行っている単純労働の大半は、自動化することが可能。世界中で、ありとあらゆる機能が自動化に向かっているのはその証拠です。
つまり第一の理由である「テクノロジーで労働力を補うことができる」は、すでに現実化しているのです。(139ページより)
認知労働もAIがこなす
「それは量だけが必要な仕事の話であり、知的な仕事をすることはロボットには無理だ」という意見もあるでしょう。
しかし、人間が行う労働の「質」と、ロボットの行う労働の「質」に大きな違いがあるという考え方も、著者は疑問視しているといいます。
私たちがテクノロジーによる代替が難しいと考えている知的な仕事、つまり認知労働についても、今や文章生成言語モデルGPT-3などが状況を一変させています。
仮にあなたが本を書こうとしているとして、ひたすらキーボードを叩き続ける時間が確保できないとしても、GPT-3に初動の構想と一連の動作さえ指示すれば、残りは仕上げてくれます。
まだ完全とは言えませんが、こうしたテクノロジーによる認知労働も労働の自動化を推進してくれるわけです。
だから私は、認知労働についても肉体労働についても、労働資源が有限なものだとは考えていません。(141ページより)
これが第二の理由、「テクノロジーで認知労働も供給しうる」ということ。(140ページより)
自分の価値をどこに置くか考える
AIについての話題の本題は、労働力や労働の質ではないと著者は主張しています。すべては、私たちがどこに価値を置くかによるというのです。
もしも自主性や相互関係、共有の価値観などを大切にしたいのであれば、AIは単なる補助的知能ということになります。
そしてそれは、整然として正確に機能する優秀なものだと見なされることになるでしょう。自分を助けてくれるのですから、当然の話です。
一方、もしもなにか特定のスキルセットが自分と切り離せないものだと考えているのであれば、AIは脅威となるはず。
プログラミングであれ、文章を書くことであれ、データ分析をすることであれ、「この仕事のこの技術こそ、自分である」というようになんらかのスキルセットを重視しているなら、ロボットは仕事を奪い去る敵となるわけです。
だから、不安が生まれるのです。
私自身にスキルセットはありません。だから少しも心配していないのです。
どうしても心配になったら、のんびりと山に登りながら、考えてみるといいのではないでしょうか。
「自分の価値をどこに置くかーーそれはスキルセットでいいのだろうか?」と。(145ページより)
「スキルセットがなくて少しも心配していないのは、“天才オードリー・タン”だからだ。誰しもがそれに当てはまるわけではない」という考え方も、たしかにあるかもしれません。
しかし、そこで「果たして本当にそうなのだろうか?」と考えてみることにこそ価値があり、結果的にはそれが新たな可能性を切り開くと考えることもできるのではないでしょうか?
「この仕事のこの技術こそ、自分である」から、AIをどう利用し、どう共存していくかについて先入観を排除して考えてみれば、新たな景色が目の前に広がる可能性もあるはずだからです。(144ページより)
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「自由」に関する本書の内容は、「格差」「ジェンダー」「デフォルト」など多岐にわたっています。
しかもクーリエ・ジャポン編集チームによるインタビューの内容をまとめたものであり、話しことばで綴られているため、読みやすくもあります。
さまざまな自由について考えなおし、自身の視野を広げるために、手にとってみてはいかがでしょうか?
Source: 講談社
Photo: 印南敦史