<東北の本棚>心の旅を感じる316句

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<東北の本棚>心の旅を感じる316句

[レビュアー] 河北新報

『夏潮』奥田卓司[著](たかんな発行所)

 句集名は<夏潮やわが胸中になほ破船>に由来する。
 八戸市に住む元中学校長の30代から最近までの句が収められている。316句の中に、ふと胸の中の「破船」を感じさせる句が顔を出す。戦前生まれが歩んできた心の旅を感じることができる一冊だ。
 <海の日や吾子(あこ)の襁褓(むつき)のへんぽんと>。風で翻るおむつへのまなざしから、子の健やかな成長を願う気持ちがにじむ。子はやがて巣立つ。<子の帰郷する日はいつぞ草茂る>。著者は農家でもある。<やませ吹く後継ぎのなきわが田へと>。田畑にあるのは労苦だけではない。<夕雲や妻楽しげに稲架(はざ)を解く>
 日常を詠んだ句に織り交ぜられる過去は、戦争の傷を今に伝える。<疎開児だと囲まれし日も木下闇>。樹木の下のほの暗さは、何を表すのか。
 <母現れし夢の余韻やむかご食べ><父在らば何を語らむ月の道><夜の障子孤児はひと前では泣かぬ>。戦災孤児の仲間を鎮魂する句も入れたことで「心が少し軽くなった」と後書きにある。
 掉尾(とうび)の<白梅や生きゆく日々を清らにと>は、読む者を爽やかな心持ちに導く。
 著者は1937年東京都生まれ、俳誌「たかんな」編集長。「夏野」(2016年)に続く第2句集。(安)
 ◇
 たかんな発行所・連絡先は奥田さん0178(23)2410=2400円。

河北新報
2020年11月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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