『日本にボランティア文化を』
書籍情報:openBD
<東北の本棚>寄り添いの大切さ強調
[レビュアー] 河北新報
寄り添いボランティアの日本での定着を訴えて2013年に初版を発行。富谷市と市内の介護施設、市社会福祉協議会が一体となっての取り組みを加えた増補版だ。社会の高齢化が進む中で、入院患者や介護施設入所者と接し、支えることの意義や心得を簡潔にまとめている。
従来わが国では慰問型ボランティアが中心で、患者・入所者と直接触れ合うことは少なかった。医師である著者は、米国の医療・介護施設を訪れた際に目にした市民の活動に接し、感銘を受けた。話し相手や遊び相手、散歩相手となって支えることが、日常の暮らしの中に根付いていたからだ。
わが国でも、お年寄りの世話をしたいと思う市民は少なくない。しかし、施設の側からすれば、入所者を危険にさらさないためにも、何の資格もない市民を入所者に触れさせるわけにはいかないという意識があった。いつも人手が足りず仕事に忙殺されている施設職員にとっても、ボランティアの活用が解決策になり得るというのに。
本書ではボランティアの基本原則として、入所者の安全を第一に、プライバシーを守り、施設のルールを守ることを挙げている。
そして、話したり遊んだりしようとしても相手が反応しない場合は、そこにいるだけでもいいという。「いること(being)」は「何かすること(doing)」よりも大切だと強調する。
巻末では、19年に富谷市で始まった取り組みを紹介。ボランティアを募集、研修させさせた上で、市内六つの介護施設に派遣し成果を上げている様子を報告している。
著者は東北大医学部長や東北労災病院長などを歴任。仙台敬老奉仕会会長として、寄り添いボランティアの普及に尽力する。(菅)
◇
NPO法人CIMネット03(6280)3811=770円。