三度目の恋 川上弘美著 中央公論新社

レビュー

3
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三度目の恋

『三度目の恋』

著者
川上 弘美 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784120053344
発売日
2020/09/23
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

三度目の恋 川上弘美著 中央公論新社

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

 伊勢物語がモチーフ。と言われても、ほとんど知識はない。せいぜい、主人公とされる在原業平がやたら女好きということくらい。でも、とりあえず読んでみた。ちょっとぼんやりした感じがする梨子(りこ)の物語。女性にもてすぎる夫がナーちゃんこと生矢(なるや)。ふむ、名前からしてナーちゃんのモデルが業平かしらん。

 梨子は妙にリアリティーのある夢を見続ける。そこでは吉原の遊女や平安時代の女房として生き、さまざまな経験から大きく成長していく。実生活でも夢の中でも見え隠れするのは小学校の用務員だった不思議な高丘さん。

 もちろんナーちゃんの恋愛はたくさん、梨子の恋心も出てくる。が、読み終わりそうになっても、「三度目の恋」が何を意味するのかよくわからない。そして最後、ああそういうことやったんか。ええ本やったなぁと、ほっこり読了。

 しかし、なんとも言えないモヤモヤが残った。夢の中で遊女が伊勢物語を読む、女房がお仕えする姫さんは業平の妻、というように伊勢物語に関係しているところはあるけれど、きっと他にもたくさん隠されているにちがいない。

 そこで、川上弘美自身が現代語訳している『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 03』の「伊勢物語」と高樹のぶ子の『小説伊勢物語 業平』を読んでみた。なるほどの連続。中でもこれ。

  君や来し我や行きけむ思ほえず

    夢かうつつか寝てかさめてか

 業平は伊勢神宮に仕える斎王・恬子(やすこ)と夜を共にする。禁断の行為の翌朝、恬子が贈った歌だ。恬子は次の夜も待つが、業平は宴席から抜け出せない。そこでまた歌が交わされる。(たぶん)業平いちばんの恋愛である。鈍なことであった。最大のテーマは夢か現(うつつ)かやんかと再読。

 持つべきものは基礎知識。すでにストーリーは知っているのに、二度目の方がはるかに楽しめた。うん、見事に伊勢物語がモチーフになっている。って、ちょっとえらそうすぎるか。

読売新聞
2020年11月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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