エクストリーム・エコノミー リチャード・デイヴィス著 ハーパーコリンズ・ジャパン

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

エクストリーム・エコノミー 大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済

『エクストリーム・エコノミー 大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済』

著者
リチャード・デイヴィス [著]/依田光江 [訳]
出版社
ハーパーコリンズ・ジャパン
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784596551597
発売日
2020/10/09
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

エクストリーム・エコノミー リチャード・デイヴィス著 ハーパーコリンズ・ジャパン

[レビュアー] 稲野和利(ふるさと財団理事長)

 科学者のあいだで広く共有されている「極限の状況から重要な教訓が得られる」という考えを経済分野にも適用すべく、世界9か所の「極限の場所」を経済学者である著者が訪ね歩く。着眼点、インタビュー力、分析力が秀逸だ。著者自身のポジティブな人間観とも相俟(あいま)って、定量的には把握できないが経済にとって重要な人間的要素ともいうべきものが浮かび上がる。

 九つの地域は、再生、失敗、未来という三つのタイプの極限(エクストリーム)のいずれかに関係する。「再生」のパートにおける著者の関心は「立ち直る力(レジリエンス)」にあり、それには「非公式経済」の持つ活力が鍵となることが示される。津波の壊滅的被害から急速に復興したインドネシアのアチェは、代表的事例だ。ピーク時に20万人が暮らしたヨルダンのザータリ難民キャンプでは厳格な管理が停止された結果、実に多様な小口ビジネスが発生し、地域活力の源となる。

 「失敗」のパートでは、非公式経済への依存には限界があり、国にしか為(な)しえないことがあるのだということが確認される。コンゴ民主共和国のキンシャサでは、賄賂の横行や政策の不備により、有り余る資源にもかかわらず経済は浮上しない。

 「未来」のパートでは、極限の地から未来を見据える。高齢化最前線の秋田では希望を見出(みいだ)し、IT化の最先端を走るエストニアのタリンでは、「デジタルデバイド(情報格差)」や多数の無国籍者の存在などに分断国家の様相を見る。チリのサンティアゴでは、市場万能政策が導いた極端な格差社会を目撃する。「高齢化が進み、テクノロジーが多くを担い、経済的に不平等な都市社会」を近未来の姿として予想する著者は、このなかを上手に進んでいくには新たな経済学が必要だと述べ、市場は万能ではないという前提の下で、人的資本と社会資本の重要性を再認識する必要があるのではないかと説く。「歩むべき道は新しい中庸だ」という言葉が印象的だ。依田光江訳。

読売新聞
2020年11月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加