アイドルを越境して書き続ける 顔ではない存在理由を探して

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オルタネート

『オルタネート』

著者
加藤 シゲアキ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103537311
発売日
2020/11/19
価格
1,815円(税込)

書籍情報:openBD

アイドルを越境して書き続ける 顔ではない存在理由を探して

[レビュアー] 霜田明寛(作家/チェリー編集長)

「加藤シゲアキは努力の人ではないと思うんですよね」

“ジャニーズの成功の理由は努力である”というコンセプトの書籍『ジャニーズは努力が9割』を書く際に、最後まで悩んで、加藤シゲアキのことを書くのをやめた。彼の文才は生まれつきの才能のように思えたのだ。

 アイドルで作家という“天は二物を与えた”の象徴のような存在。いや、そう捉えたのは嫉妬みたいなもので、彼の存在が、“ジャニーズになれなかったから、文章を書く仕事をしている”自分の存在否定のように感じられたのだろう。特にデビュー作『ピンクとグレー』は、芸能界と渋谷という自身の見てきた世界を舞台にした彼にしか書けない傑作で、自分より顔もよく本も売れる存在の登場に絶望した。

 あれから約10年、長編5作目となる『オルタネート』はデビュー作以来の青春群像劇だ。しかし、そこに加藤の心象風景は透けない。高校生限定のマッチングアプリ、LGBT、SNSや動画配信での有名人、遺伝子相性診断……描かれる題材は、現在の社会に接続されている。リサーチをもとにした完全な職業作家の作り方である。自分の見た世界を背景に、衝動的に1冊だけ私小説的な作品を出す芸能人なら多くいる。なぜ加藤は越境し、書き続けるのだろうか。

 加藤シゲアキが描く思春期には哀しさがつきまとう。アイドルが描く青春なのに、瑞々しくないのである。ジャニーズ事務所に入り、自分が抜擢されセンターに立っていく過程に「優越感より罪悪感が強かった」という加藤自身が反映されていることもあるのだろう。だがもうひとつ、思い当たる哀しさがある。

 小学6年生でジャニーズJr.になった加藤は、ジャニー喜多川に自分を選んだ理由を聞くと「顔」と返されたという。さらに、高校1年生でデビュー後、10年ほど疎遠な時期が続き、再会を果たした日にこう言われる。

「YOU、あのときは可愛かったのにこんなになっちゃって。最悪だよ」

 ジャニー喜多川とタレントとの話の中で、最も哀しいエピソードと言っていいだろう。その存在否定のような言葉は、自らが青春を捧げた芸能活動の“父”からの最後の言葉となった。

 加藤は、顔ではない自分の存在理由を探して、文章を書き続けているのではないだろうか。きっと、才能とは天に与えられたもののことではなく、努力で身につけたもののことを言う。加藤シゲアキは、アイドルに生まれ、職業作家になった“努力の人”なのだ。

新潮社 週刊新潮
2020年12月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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