インタビュー嫌いの大物芸人に人生を捧げたファンの“研究本”

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明石家さんまヒストリー1 1955~1981 「明石家さんま」の誕生

『明石家さんまヒストリー1 1955~1981 「明石家さんま」の誕生』

著者
エムカク [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103537816
発売日
2020/11/17
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

インタビュー嫌いの大物芸人に人生を捧げたファンの“研究本”

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 プロレスは底が丸見えの底なし沼だと言われるが、明石家さんまもまた底が丸見えの底なし沼である。

 彼のキャラクターもプライベートも日本国民なら誰もがよく知っているつもりなのに、これまでどんな人生を歩んできたのかについてはよく知らない。なぜなら彼はインタビューが嫌いで、ちゃんとした自分語りをしたこともほとんどないからだ。

 ボクは明石家さんまインタビューを実現させるために、テレビでの共演オファーを何度も受けて関係性を築き、『さんまのまんま』出演時に質問攻めにしたり、NETFLIXのCMでインタビューしたりした。かなりいろんな話を聞けて好評だったが、それを単行本にまとめるという話は本人が断ったらしい。明石家さんまとは、そういう人間なのである。

 これは、そんな底なし沼にハマって、人生を明石家さんま研究に捧げた男によるヒストリー本。あまりに調べすぎたので単行本1冊にまとまらず、1巻は誕生から20代半ばまでで終わる。売る気あるのか?と心配になる構成なんだが、だからこそ中身は知らない話だらけ。ラジオ『ヤングタウン』のコーナー司会としてレギュラー出演するようになった頃、「ラジオで年齢の低い者の相手をするのは疲れます。やめたいと思うのですが」とボヤいていたなんて、60代半ばになっても『ヤングタウン』でハロプロの10代メンバーの相手をしている今では考えられないよ!

 ただ、2歳で実母が亡くなった後の、継母に対する複雑な感情など、ネガティブ部分はあまり掘り下げず、「高文(注・本名)はずっと疎外感を抱いていた。それを忘れさせてくれたのが、笑いだった」「それから毎日、親戚や家族を笑わせることに力を注ぐようになる」ぐらいの描写で済ませているのは、本人がそこに触れられるのが嫌だとわかっているファンならではだろうけど、そこはもう一歩踏み込んでも良かったんじゃないかとも思ったりするのであった。

新潮社 週刊新潮
2020年12月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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