経済学者が語る“旬の渋沢”一代記

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経済学者が語る“旬の渋沢”一代記

[レビュアー] 林操(コラムニスト)

 やや気の早い話ながら来年の大河ドラマの主人公は渋沢栄一。美女に関すること以外は天下に恥じることなしと語るほど下半身まで八面六臂の偉人ゆえ、「青天を衝け」なるタイトルを知ったときは「太陽の季節」の障子を思い出したけれど、この題の由来は「青空を衝く勢いで上昇し、白雲を穿つ気力で前進する」という渋沢作の漢詩らしい。

 ってことは次の大河、「坂の上の雲」よりさらに上を目指す「坂の上の雲の上の空の上の太陽」なのか? でもそれじゃ「なつぞら」とか「おひさま」とかの朝ドラ方面だぞ?―などと首を捻りつつ、「麒麟がくる」もそろそろ終盤、さぁ渋沢について予習復習しとくかねぇという今、新書に『渋沢栄一』が登場しました。

 著者の橘木俊詔は格差を切り口にこの国の現状実情惨状を示してきた経済学者。今回の新書だって凡百の大河ドラマ便乗本や下世話な渋沢読本とは別物で、女がらみの話は最小限、儒教方面もあっさり系な一方、洋行で受けた影響や朝鮮半島政策への関わりについての記述は多め。農村青年→幕臣→官僚→銀行家と目まぐるしい転向転変を経てニッポン経済の基盤を作り上げ、福祉や教育にまで眼を配った渋沢の振れ幅=伸び代の大きさがよくわかる。

 読んでいると、柔らかい頭と機に恵まれた運とで苦労を乗り越え成功を掴む栄一が「無責任」シリーズの植木等に似てきて、なんだか元気まで出てくるから、新しい大河もそういう出来になるといいんだけれど。

新潮社 週刊新潮
2020年12月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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