<東北の本棚>「引継書」から事実発掘
[レビュアー] 河北新報
昭和の戦争をテーマに著述を続けてきた筆者の集大成とも言える一冊。これまでと同様に多くの関係資料を読み込み、満州事変から敗戦までを丹念に伝える。今回新たに光を当てたのが、宮城県公文書館所蔵の「知事事務引継書」だ。戦時中に数カ月から数年で交代した官選知事十数人の内部資料からは、地方もいや応なく破壊の時代に巻き込まれていった様子をつぶさに知ることができる。
太平洋戦争開戦の翌年、1942年の「引継書」で注目しているのは、三陸沖に米潜水艦が出没している事実だ。同年8月、気仙沼の漁船が潜水艦の攻撃を受け、乗組員8人のうち3人が行方不明になった。他にも、同様の被害が複数記録されている。
三陸沖の異変を伝える章では、42年4月に東京や名古屋、神戸などが米軍によって突然空襲を受けた事実も紹介する。空母から発進した爆撃機による奇襲で、潜水艦出没とともに日本が既に破局に向かっていたことを暗示する。本書の魅力の一つは、こうして日本全体の状況も具体的な史実とともに説明する姿勢で、戦争の実像がより具体的に迫ってくる。
戦時中の雰囲気だけでなく、庶民の思いを伝えることにも腐心する。あの頃、戦死者の家族は「お国のために散ってうれしい」などと語ることが多く、本音を言えなかった。筆者は、幼子を残してガダルカナル島で戦病死した宮城県職員の妻による当時の日記を紹介し、「泣けばよいのか叫べばよいのか…」と吐露された文面から銃後の絶望を伝える。
筆者は34年、仙台市生まれ。元河北新報記者で、著書に「八木山物語」などがある。本書は、2008年刊行の「七月十日は灰の町 仙台空襲と戦時中のこと」をベースに、新たな取材成果を加えている。(安)
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