スター 朝井リョウ著 朝日新聞出版

レビュー

4
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スター

『スター』

著者
朝井リョウ [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784022517197
発売日
2020/10/07
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

スター 朝井リョウ著 朝日新聞出版

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

 私は最近、出演しているNHKの落語番組で、YouTubeの話題が積極的に取り上げられることに意外性を感じていた。とは言え私自身もネットで落語を観(み)ることが多く、確か番組を始めた昨年の春頃は、「動画配信サービス」と表現を濁すよう言われていたはず……。新しい流れに乗りながらも、私はまだ古いルールの中にいたのだと今回気が付いた。

 世の中の物凄(すご)い速度の変化に必死で追いつくように、あらゆる場所で変化が起きている。テレビや映画と、ネットの動画。プロとアマ。様々な境界線がなくなり、多様な価値観が渦巻く今を描いたのが、まさに本書だ。

 著者は明言している。本作のテーマは「変化する時代と、質と価値」。大学時代に映画祭でグランプリを受賞した尚吾と紘が、卒業後にそれぞれ真逆の進路を選ぶ。「本物の実力を持った、本物の映画監督になりたい」尚吾は、名監督のもとに弟子入りをする。紘は、「自分がかっこいいと感じたものをかっこよく撮る」べく、尊敬するボクサーを撮影し、YouTubeで発信することに。

 自分の作った映像を次々発信し、多くの人の目に触れている紘の活躍を横目に、自分の映像は一つも世に出せていないもどかしさ。一方の紘も、質よりも量を求められ、違和感を感じる。それぞれ、やりたいことと求められることのギャップに煩悶(はんもん)する。質の良し悪(あ)しは誰が決めるのか。揺るがない価値はあるのか。「この世界のどこを踏みしめれば自分の足で立つことができるのか」。

 とことん一つのテーマを突き詰める一冊。だが読者に渡されるのは答えではなく、問いだ。シロでもクロでもなくグレーを描き出しているが、最後は二人の目の前の靄(もや)が晴れている爽快感は見事。踏み出す一歩に自信が漲(みなぎ)る。きっと晴れた空には自分の星が見つけられるだろうという予感が、私たちの背中も押してくれる。

読売新聞
2020年11月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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