外交回想録 竹下外交・ペルー日本 大使公邸占拠事件・朝鮮半島問題 寺田輝介著 服部龍二、若月秀和、庄司貴由編

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外交回想録 竹下外交・ペルー日本大使公邸占拠事件・朝鮮半島問題

『外交回想録 竹下外交・ペルー日本大使公邸占拠事件・朝鮮半島問題』

著者
寺田 輝介 [著]/服部 龍二 [編集]/若月 秀和 [編集]/庄司 貴由 [編集]
出版社
吉田書店
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784905497905
発売日
2020/09/30
価格
4,180円(税込)

書籍情報:openBD

外交回想録 竹下外交・ペルー日本 大使公邸占拠事件・朝鮮半島問題 寺田輝介著 服部龍二、若月秀和、庄司貴由編

[レビュアー] 御厨貴(東京大学先端科学技術研究センター客員教授)

◆緊迫の現場 細かな叙述で

 外交官のオーラル(口述)・ヒストリーも最近は多くなった。それぞれに人となりが反映されていておもしろい。寺田輝介氏のそれにも顕著な特徴が見てとれる。竹下登首相の秘書官として中曽根後の「竹下外交」を担った一人であること、中南米局長として冷戦後の中南米に「二つのD」(Democracy and Development)政策で臨んだこと、駐メキシコ大使として「ペルー日本大使公邸占拠事件」の解決にあたったこと、駐韓国大使として外交官生活を終えたこと。この四つのトピックスについて寺田氏は生真面目にメモや資料を準備の上、淡々と語っている。

 内政の人竹下の外交姿勢は、まずもって典型的な外務省主導型外交であった。外務本省の積み上げと官邸の秘書官との関わりがよく見える。日本外交の制度的枠組みがしっかりと機能し、寺田氏は本省と官邸との役割分担について、明確に証言している。しかし、寺田氏のきめ細かな竹下外交の叙述に、竹下派の内政上のその後の動向が浮かび上がってくる。

 それは何か。宇野宗佑外相と竹下の外交を通じての信頼関係が、やがて竹下による宇野への後継指名につながり、社会党による北朝鮮外交への関与が、その後の自民、社会、さきがけ政権への伏線になった。しかし、竹下・金丸・小沢の社会党への傾斜が竹下派の分裂と権力の真空を生み、清和会政権への道を開いたことが読めるのだ。

 本書の圧巻は「ペルー事件」での寺田氏の働きである。フジモリ大統領側とゲリラとの対話の証言は、シーンが目に浮かぶようである。こうした会合の回し方がいかに大変か、その中でシプリアーニ大司教の存在がいかに重要であったか。日本側も橋本龍太郎首相、池田行彦外相、高村(こうむら)正彦外務政務次官と、そろいもそろって個性的な幹部たちだったから寺田氏はさぞや大変だったと察せられる。

 誠実で実直な語り口の中に、本来の外務省外交の在り方が手に取るように分かる好著である。質問者の戸惑いも垣間見えてほほ笑ましい。

(吉田書店・4180円)

1938年生まれ。元外務官僚。首相秘書官、中南米局長、駐韓国大使など歴任。

◆もう1冊

宮城大蔵著『現代日本外交史 冷戦後の模索、首相たちの決断』(中公新書)

中日新聞 東京新聞
2020年12月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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