『ラファエロ―ルネサンスの天才芸術家』
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【聞きたい。】深田麻里亜さん 『ラファエロ ルネサンスの天才芸術家』
[文] 渋沢和彦
■人々を魅了し続けるオーラ
「優美という言葉だけでは形容できない近寄りがたい風格があります」
イタリア・ルネサンスの巨匠、ラファエロ・サンツィオ(1483~1520年)。37歳で死去したこともあり、自筆の記録は少ない。「伝記などで穏やかな人柄と伝えられているように、強烈な個性を伝えるエピソードはほとんど見当たりません」
バチカン宮殿「署名の間」の壁画「アテネの学堂」や崇高な聖母子画など数々の傑作を残した。死後、神格化されたが、ずっと天才のイメージを持ち続けていたわけではない。評価が高まった背景には、16世紀後半以降、欧州各都市で美術教育の場として創設されたアカデミーの存在があったという。
「美の規範、手本として学ばれるようになったのがルネサンスの芸術家で、とりわけラファエロはアカデミーの守護神というべき存在でした」
それが19世紀、アカデミーに批判的な芸術家たちによって、理想的画家像に疑問が投げかけられた。
「でも20世紀に、美術史家たちによって実情に即した再評価が行われ、現代に至っているのです。ラファエロの作品は緊張感のある独特のオーラを持っています。だから永遠に人々を魅了するのでしょう」
ベネチア出身の画家、セバスティアーノ・デル・ピオンボら、ライバル関係にあった画家との比較なども盛り込み、楽しく読ませる。同時に、作品の細部まで丁寧にかみ砕いて解説しているので理解しやすく、魅力が伝わってくる。
ほぼ毎年、イタリアを訪れている。
「ローマのラファエロの墓碑の前にはいつも花が置かれています。いまも人々に愛され、心のなかに息づいていることを感じます」
今年は没後500年。
「節目の年に出版できてよかったです。新型コロナウイルス感染がおさまり海外渡航が解禁されたら、また作品を見に現地へ行きたい」(中央公論新社・1000円+税)
渋沢和彦
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【プロフィル】深田麻里亜
ふかだ・まりあ 昭和55年、東京生まれ。東京芸大大学院美術研究科博士後期課程修了。東京芸大非常勤講師。著書に『ヴィッラ・マダマのロッジャ装飾』など。