『水と礫(れき)』藤原無雨著
[レビュアー] 産経新聞社
東京でドブ浚(ざら)いの仕事中に事故を起こし、砂漠に接する生まれ故郷に戻ってきた主人公クザーノ。心を苦しめる東京から蓄えてきた悲しい水分を抜くために、ラクダのカサンドルと砂漠を越える旅に出た。幻の町を目指して。
物語はクザーノの灼熱(しゃくねつ)の旅を核としながら、父、祖父、息子、孫らのエピソードを交えつつ、無限ループのように繰り返す。大胆な構成が高く評価され、史上最多数の応募作から第57回文芸賞に選ばれた。
コロナ禍で生きづらさが浮き彫りとなる今、新たな世界を希求する人々の気持ちにも寄り添う注目作。(河出書房新社・1400円+税)