通学させてもらえなかった少女は親を捨てて大学でどう変わったか

レビュー

10
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エデュケーション

『エデュケーション』

著者
タラ・ウェストーバー [著]/村井 理子 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784152099464
発売日
2020/11/17
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

通学させてもらえなかった少女は親を捨てて大学でどう変わったか

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 著者のタラ・ウェストーバーは1986年生まれの34歳。現在ハーバード大学公共政策大学院上級研究員で歴史家。エッセイストでもある。

 彼女はアイダホ州クリフトンで父親の思想が強く反映された反政府主義を貫くサバイバリストのモルモン教徒の両親のもと、七人兄弟の末っ子として生まれた。

 公立学校へは通わせてもらえず、家庭内で科学や医療を否定した偏った教育を受けて育った。父の事業の廃品回収とスクラップの仕事を手伝わされ、危険な作業を強いられた。

 母は薬草のオイルや軟膏を使った民間療法による助産婦として徐々にその地域の信頼を獲得していく。

 一人の兄が親を捨てて大学に入学したことでタラも勉学に対する強い欲求が芽生える。猛勉強のもと自宅学習者(ホームスクーラー)を受け入れるブリガム・ヤング大学へ入学が叶った。だがどの授業も初めて聞く話ばかり。最初は勉強の仕方もわからなかったタラが目を瞠(みは)るような変貌を遂げていく。

 教育は重要だ。その「教育」自体が特殊なら何が起こるのか。タラの両親は自分たちの思想を教え込もうとした。その地域で仲間と永久に暮らし、彼らと同じ生活を続けるなら問題はなかったかもしれない。

 タラは一種の天才なのだろう。彼女の才能は大学入学後わずか4年で開花する。ケンブリッジへの留学、その後ハーバードで博士号を取得するほどの聡明さを持っていた。

 しかしこの間も彼女を悩ませたのは家族との関係だった。父や兄弟の執拗な暴力、偏った思想による精神的虐待の繰り返しは読むのが辛くなるほどだ。彼女は完全には家族を切り離せない。何度もかつての環境に戻ろうとする。その気持ちが切ない。

 タラにとって大学入学が大きな変革の始まりだった。だがそれ以上に社会から教わる知識を得ることで強くなるのだ。本書を書き上げたことは一つの区切りにもなっただろう。彼女の人生に幸あれと願う。

新潮社 週刊新潮
2020年12月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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