ポアロも金田一耕助も洋の東西を問わず名探偵はクリスマスでも大忙し

レビュー

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悪魔の降誕祭

『悪魔の降誕祭』

著者
横溝, 正史, 1902-1981
出版社
角川書店
ISBN
9784043555031
価格
649円(税込)

書籍情報:openBD

ポアロも金田一耕助も洋の東西を問わず名探偵はクリスマスでも大忙し

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 クリスマスももう間もなくという季節になったが、洋の東西を問わず、名探偵はクリスマスも大忙しのようだ。今回はその意味で少し古典的な作品を扱うことになった。

 まずアガサ・クリスティー『ポアロのクリスマス』(村上啓夫訳)で、灰色の脳細胞を持った名探偵は、奇怪な状況下の死体と遭遇することになる。凄まじい絶叫が聞こえた後、密室を破った人々を待ち構えていたものは、喉を切られ血に染まった死体と、部屋の中に散乱した家具や陶器、さらに消え失せた宝石等々――。ミステリのこととて詳細を記すことはできないが、逆の密室ともいうべきひとひねりした設定、そしてポアロもサンタクロースもはやしている“髭”というキーワード、加えて、何気なく聞き逃してしまう、繰り返されるある証言といった具合に、快調な謎ときが楽しめる一巻となっている。

『メグレ警視のクリスマス』

 そして海を渡ってフランスに眼を移せば、ジョルジュ・シムノン『メグレ警視のクリスマス』(長島良三訳、講談社文庫)がある。

 欧米ではオーソドックスなクリスマスストーリーは、子供が登場することと奇蹟が起こることが条件であるとされている。「メグレ警視のクリスマス」は、足を骨折し、寝たきりになっている少女の部屋にサンタクロース姿の人物が現われるのが事件の発端だが、もちろん奇蹟も起こる。本書は現行本ではないが、他のシムノンの作品のようにネットで古書を注文してもそう高くはないので、ぜひ一読をおすすめしたい。

 そして日本には、もじゃもじゃ頭の名探偵金田一耕助が登場する、横溝正史『悪魔の降誕祭』(角川文庫)がある。

 成城は緑ヶ丘荘の金田一耕助の事務所で、偽名を使って耕助に会おうとしたジャズ歌手関口たまきのマネージャー志賀葉子が毒殺されるのが発端である。そして耕助の日めくりが数日先まで破り取られ、十二月二十五日になっているではないか。これは予告殺人なのか。普通、名探偵ならまなじりを決して犯人を追うところだが、相変わらず耕助は飄々と謎をといていく。

新潮社 週刊新潮
2020年12月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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