12月号では芥川賞候補作を狙う勝負作を各誌投入

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12月号では芥川賞候補作を狙う勝負作を各誌投入

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)

『群像』2020年12月号

 下半期の芥川賞候補作は、文芸誌7~12月号およびそれに準ずる期間の雑誌から選出される。12月号には、各誌勝負作を投じてくる。

 だが、芥川賞の候補予想は虚しい(当たらない……)。ここは邪念抜きでいこう。

 今月は、乗代雄介「旅する練習」(群像)が頭一つ抜けていたということになるだろうか。煮え切らないのは、トリッキーさへの疑念を拭えないからだ。

 小説家である「私」が、中学受験に合格したばかりの姪の「亜美(アビ)」を、コロナ禍による休校に乗じて、我孫子から鹿島まで徒歩で行く「合宿」の旅に連れ出す。サッカー少女の亜美が昨年夏、鹿島の合宿所から無断で持ち帰ってしまった文庫本を返しに行くというのが仮初めの目的だ。亜美は球を蹴りながら、「私」は風景を描写しながら利根川沿いを往く。「歩く、書く、蹴る」「練習の旅」。

 このあまりに人為的な舞台装置をどう取るか。一方で、手法への意識とペダントリーに叙情を宿らせるという類を見ない試みの達成度は高い。近年、意義が疑問視されるようになってきた「描写」を主題に据えているのも挑発的である。

 荒唐無稽ということなら、鴻池留衣「わがままロマンサー」(文學界)は乗代作の比ではない。

 売れない純文学作家の「私」は妻に浮気がバレる。売れっ子BL漫画家で腐女子的妄想に生きる妻は、落とし前に男とのセックスを見せろと迫り、イケメンBL漫画家でゲイの志村を連れてくる。本当はノンケだという志村は妻と浮気をしていた。現場を押さえられた志村は「私」に服従を誓うが、ゲイビデオで男優をしているのが発覚する。ノンケも嘘でバイセクシャルだったのだ。覆面作家である「私」は、自分のビジュアルに志村を立てることを思いつき、実行に移す―。

 出鱈目も突き詰めると妙なリアリティを帯びる。折しも三島由紀夫没後50年。各誌が特集を組んでいたが、本作も一種の三島トリビュートとも読める。

 竹林美佳「弱い愛」(すばる)は、SF的道具立てで、「非局在的な弱い繋がり」としての「愛」を浮かび上がらせた作。発想が面白く、手も込んでいる。

新潮社 週刊新潮
2020年12月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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