『世界で一番すばらしい俺』
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<東北の本棚>自分の弱さに向き合う
[レビュアー] 河北新報
粘膜むき出しの、ひりひりした痛みが伝わってくる。失恋、自殺未遂、交通事故、孤独…。苦しみを言葉にすることで、精神の均衡を図ろうとしているかのようだ。
著者は仙台市に住む41歳の歌人。2017年に短歌結社「未来」の未来賞を、18年に第61回短歌研究新人賞を受賞。初の歌集となる本書には未来賞受賞作、角川短歌賞候補作、短歌誌や新聞歌壇の掲載作など331首を掲載した。口語短歌が多いが、読後感は軽くはない。現代社会で生きづらさを抱える若者共通の焦燥が伝わるからだ。
高校時代の失恋を主題にした第1章「校舎・飛び降り」が本書理解の肝となる。通読すれば、この挫折が著者のその後の人生に深い傷痕を残していることが分かる。
<目を閉じて頭を下にして落ちた六十九キログラムの自分><忘れずにいてもらうため死にたいとマジで思うし理解されたい><十七の春に自分の一生に嫌気がさして二十年経つ>
明るい未来など見えない生活の中で、もがく等身大の若者の姿が浮かぶ。<ぼろぼろを渡って帰る二十二時ぼろぼろは来てくれた部屋まで><死にたくて飛びこんだ海で全身を包むみたいに今日を終わらす>
それでも著者は心のどこかに生への渇望を宿す。<祈りとは声も指先も届かない者にダメ元で伝える手段><そこここに空を見ている人がいて青さを喜び合っている夢><わかるけどそうは言っても死んだまま一生過ごすことはできない>
歌人加藤治郎氏は短歌研究新人賞の選考座談会で「人間性が色濃く表れた作品です。黒ずみにちょっとかけてみましょうよ」と述べた。正面から自分の弱さを詠む誠実さは魅力だ。ここからどう文学性や時代観を持てるかが問われてくるだろう。(建)
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短歌研究社03(3944)4822=1650円。