『全裸監督』の脚本家、『タイトル、拒絶』の監督でもある、気鋭のクリエーターが描く家族像とは?

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されど家族、あらがえど家族、だから家族は

『されど家族、あらがえど家族、だから家族は』

著者
山田佳奈 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575243383
発売日
2020/10/22
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

日曜日のフードコードで楽しげに笑い合うファミリーたちを見ると心底うんざりするあなたにぴったりな、「一番近い他人」を巡る物語。

[レビュアー] 門賀美央子(書評家)

 Netflixオリジナルドラマ『全裸監督』の脚本家であり、セックスワーカーの女たちを描いた映画『タイトル、拒絶』の監督でもある、気鋭のクリエーター山田佳奈。群像劇を得意とする彼女の初の小説『されど家族、あらがえど家族、だから家族は』について、書評家の門賀美央子さんが読みどころを解説する。

 ***

 家族。この言葉にポジティブな印象しかない人はきっと幸せ者だ。令和の今、表向きは家電のCM的「仲良し家族」像がスタンダードになってはいるが、現実はほとんどが愛憎半ば、どうかすると「家族と書いて面倒と読む」が相場だろう。そして、本作が描くのは「面倒と読む」タイプの家族である。

 のっけから幼い頃父親に不倫のダシにされた末弟の回想が始まり、次の章ではその父親が老いて認知症を患った末、突然姿を消してしまったことが語られる。不慮の事故に遭ったのか、自発的に家出したのか。真相は不明ゆえ子供たちは警察に届けるべきかすら判断できず、途方に暮れる。子供、といっても全員歴とした成人なのだが。三十半ばを過ぎた長兄はいまだ田舎のヤンキーライフを卒業できず、長姉は頼りない兄と弟に憤懣やる方ない。家を離れて久しい末弟はどうすればいいのかわからない。突発した「父の不在」があぶり出したのは、いい年になっても中身はまだ「子供」のままという三人の実態だった。一人ひとり、章ごとにスポットを当て、内面を語らせる手法は演劇的である一方、全体には昭和の文芸系家族映画のような閉塞と葛藤の空気が漂う。

 本作が小説デビュー作となる著者の山田佳奈だが、演劇や映画に詳しい向きはこの名に見覚えがあるだろう。劇団「□字ック」主宰の演劇人であると同時に、昨年動画配信サービスのみのリリースだったにも関わらず大きな話題になったドラマ『全裸監督』の脚本家であり、また映画『タイトル、拒絶』や『今夜新宿で、彼女は』などを撮った映画監督でもある。表現に関わる多ジャンルで頭角を現しつつある気鋭だ。

 平均からちょっと(時にはかなり)下方向に外れた人間たちの群像劇を得意とする著者。そんな人が書く「家族」だから、当然すべての出来事はまったく家電CM向きでない。愚かにも愛する人を裏切ったり、傷つけたりもする。だが、それでも憎めないのは、各々が自分なりに「父の不在」、そして眼前の相手と向き合おうと努めているからだ。腰は引けていても、逃げはしない。そんな彼らはとてもいじらしい。タイトルの「だから家族は」の後にはどんな言葉が隠れているのか。読前読後では脳裏をよぎるセンテンスが変わるはずだ。

 家族に複雑な思いを抱えていればいるほど、この物語の結末には胸打たれることだろう。

小説推理
2020年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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