『レンブラントをとり返せ』
- 著者
- ジェフリー・アーチャー [著]/戸田 裕之 [訳]
- 出版社
- 新潮社
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784102161500
- 発売日
- 2020/11/30
- 価格
- 1,045円(税込)
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八〇歳を前に新シリーズが始動 稀代の物語巧者による警察小説
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
二〇二〇年度の日本ミステリーのベストテン企画は、辻真先『たかが殺人じゃないか』が三冠を達成した(「ミステリマガジン」「このミステリーがすごい!」「週刊文春」)。米寿パワーに脱帽。同世代では西村京太郎、皆川博子もまだ現役ばりばりだし、まさに高齢者の星だ。
いや日本だけではなかった。イギリスでも、八〇歳を迎えた本書の著者が前年に新たなシリーズを始動させた。訳者戸田裕之も記しているように、著者は『クリフトン年代記』サーガを終えたら筆をおくかと思ったが、それどころか同作の主人公が書いていた作中作の執筆に着手。しかも警察小説となれば読まずにはいられない。
ウィリアム・ウォーウィックは一流の勅撰法廷弁護士を父に持つ中流家庭に生まれた。姉もやり手の弁護士になり、彼も法曹になることを期待されたが、彼の幼時からのあこがれは警察官。著者いわく、「彼が平巡査から警視総監へ昇り詰める過程を共に歩んでもらうことになるはず」というわけで、ウィリアムは大学で美術史を学びながらもロンドン警視庁に入り一から警察官人生を歩み始める。幸い先輩に恵まれ、平巡査時代は順調。無事刑事になり、押収されたレンブラントの名画が贋作であることを見破ったことから、美術骨董捜査班への配属が決まる。
美術骨董捜査班は美術品の大物窃盗詐欺師マイルズ・フォークナーを追っていたが容易に手がかりをつかめないでいた。そのフォークナーとの対決が最大の読み所となるが、そこに至る前に、ウィリアムはアメリカ大使館の要請で大学教授から月の砂を取り戻したり、稀覯本の偽造者を追ったり、古い銀製品を買い漁る不審な収集家を探ったり、様々な案件に取り組むことに。その合間には理想の恋人との出会いもあり、とにかくページを繰る手が止まらない。
全四巻予定。稀代の物語巧者との付き合いはまだまだ続きそうだ。