ホームズ入門者への貴重なアドバイス

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

初歩からのシャーロック・ホームズ

『初歩からのシャーロック・ホームズ』

著者
北原 尚彦 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784121507068
発売日
2020/11/09
価格
968円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ホームズ入門者への貴重なアドバイス

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 シャーロック・ホームズの熱狂的なファン、もしくは専門的知識を持つ人たちを「シャーロキアン」と呼ぶそうだ。ならば北原尚彦『初歩からのシャーロック・ホームズ』は、日本を代表するシャーロキアンによる絶好の入門書である。

 著者によれば、このシリーズの人気の秘密は、ホームズとワトスンから宿敵モリアーティ教授までの魅力的な登場人物にある。本書では脇役たちも紹介されるが、ホームズがウイスキーのソーダ割りを好み、推理の邪魔になるからと恋愛を避けていたといった細かなエピソードほど興味深い。またホームズが活躍したのはヴィクトリア時代の末期であり、日本は明治時代の後半だ。タクシーとしての辻馬車が走り、ガス灯が夜を照らすロンドンには、留学中の夏目金之助(漱石)も滞在していた。

 ホームズ物には第1作『緋色の研究』に始まる長篇4冊と短篇集5冊の60作がある。では、どの順番で読むべきなのか。全作読破を目指すなら「刊行順(発表順)」。お試しの一冊には『シャーロック・ホームズの冒険』が最適と著者は言う。エピソードは独立しているので、基本的には何から読んでも構わない。ただし、物語のつながりという意味では、「『回想』を読まずして『生還』を読んではいけない」と貴重なアドバイスも忘れていない。

 名探偵の登場から133年。正典、関連本、映画やドラマなど映像作品も合わせ、ホームズという名の「文化」は今も深化している。

新潮社 週刊新潮
2020年12月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク