ニコール・キッドマンが演じた原作を超える“究極の勘違い女”〈あの映画 この原作〉

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誘惑

『誘惑』

著者
Maynard, Joyce [著]/吉野 壮児 [訳]/メイナード ジョイス [著]
出版社
講談社
ISBN
9784061855380

書籍情報:openBD

ニコール・キッドマンが演じた原作を超える“究極の勘違い女”

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 週刊新潮が「小説の中の嫌な女」というアンケートを実施したら、『誘惑』のスーザンがぶっちぎりの1位になるのは間違いなし。

 スーザンは、小さな地方都市の金持ち一家の次女。子供の頃からテレビのニュースキャスターになることが夢で努力(方向がズレてますが)を続けてきた。彼女を溺愛する両親は12歳の時、もっときれいになりたいという娘の希望通りに鼻の整形手術まで受けさせる。大学卒業後、各TV局に履歴書を送るが当然不採用。似合う色やテレビできれいに見える顔の角度は熟知、時事問題については無知というレベルですから。結局、地元の小さなケーブルTV局に事務兼雑用係として入るが、執念でお天気キャスターに。やがて新婚の夫が殺され、彼女が関わっているという疑いが……。スーザン自身と彼女を知る人たちが事件の顛末を語っていく構成が秀逸。これらの証言から浮かび上がってくるスーザンの人となりには、誰もが唖然とするだろう。

 面白い小説(現在は重版未定)なので映画化してほしいと思っていたら、読んだ3年後にガス・ヴァン・サント監督の『誘う女』が日本公開。スーザン役は当時トム・クルーズと夫婦だったニコール・キッドマン。美人で優秀な自分が有名キャスターになれないのは夫のせい、と考える究極の勘違い女を見事に演じ、ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞した。殺人現場となった自宅前に詰めかけたTV局。カメラの照明に気付き、吸い寄せられるように近づいていくスーザンの恍惚とした表情は鳥肌もの。この後も話題作や大作への出演が相次ぎ、今や大女優。でも私の中では、原作以上の嫌な女になりきっていた映画のイメージが強すぎて、長い間ニコール・キッドマン=スーザン=嫌な女という位置付けでした(笑)。

 スーザンに誘惑され、夫殺害の実行犯となるのが、貧困家庭で親の愛情なく育った、かなりおつむの弱い高校生。原作では可愛い顔だちとなっているこの役、映画では20歳そこそこのホアキン・フェニックスが気持ち悪く(褒め言葉!)熱演をしていて、怪優の片鱗をうかがわせている。こちらにも注目を。

新潮社 週刊新潮
2020年12月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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