高橋大輔選手、宇野昌磨選手らを取材して感じたフィギュアスケートの魅力を、小説として伝えたい。『氷上のフェニックス』

インタビュー

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氷上のフェニックス

『氷上のフェニックス』

著者
小宮 良之 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041095775
発売日
2020/12/24
価格
836円(税込)

書籍情報:openBD

高橋大輔選手、宇野昌磨選手らを取材して感じたフィギュアスケートの魅力を、小説として伝えたい。『氷上のフェニックス』

[文] カドブン

スポーツライターの小宮良之さんが小説『氷上のフェニックス』を刊行します。本作は、岡山出身の主人公・翔平が7歳でフィギュアスケートに出会い、競技にのめりこみ、ライバルや仲間と切磋琢磨しながら頂点を目指していく青春ストーリーです。これまで実際のフィギュアスケートの現場で、高橋大輔選手や宇野昌磨選手はじめ多くの選手に取材してきた著者だからこそ描くことのできた、リアリティあふれる迫真の物語です。その小宮さんに、これまでのフィギュアスケート取材の裏側と、それをどう小説に落とし込んだのか、執筆秘話を聞きました。

>>インタビュー第1回はこちら

――他のスポーツとは違う、フィギュアスケートの魅力とはなんでしょう?

小宮:自分が初めてフィギュアスケートを取材したのは、2005年12月に東京で行われたグランプリファイナルでした。浅田真央さんが彗星のように現れたシーズンで。僕は当時まだバルセロナに住んでいて、日本に帰国して取材したんですが、正直、驚きました。フィギュアスケートの基礎知識も足りない状況だったのに、浅田選手の演技を見ていたら、記者席で自然と涙が出てきたんです。でも、泣いている理由がよくわからなくて。自分はスペインで暮らしていたので、日本人の活躍には胸が熱くなるところはありましたが、そうしたナショナリズムとはかけ離れたものでした。流れる曲、ステップ、表情、すべてが調和して、まるで数分間の物語を見ているような感覚になりました。15歳の少女の演技に胸を打たれたんです。そこで、フィギュアスケートの力というものを思い知りました。

――フィギュアスケーターの魅力とは、どこにあると感じていますか?

小宮:氷の上の競技ということもありますが、選手はみな信じられないような体の動きができるし、それが音楽に乗った表現につながると、鳥肌が立ちます。その様子を活写し、描写することは、とても楽しいですね。スケーターたちはみな素直で丁寧で、言葉にするのを億劫がらない。インタビューでも、「伝えよう」という意志を強く感じます。それはフィギュアスケートという競技が、「演技」という表現をベースにしたスポーツだからかもしれません。

――スポーツのなかでも、独特な競技と言えますね。

小宮:かつて、スペイン人スケーターのハビエル・フェルナンデスにインタビューしたとき、「サッカーと違って、スケーターはリンクにたったひとりで立ち、すべてを背負って演技する。そのストレスはすさまじい」と話していました。ひとりだけが注目され、ショート2分40秒、フリー4分という短い競技時間のなかで、それまでの人生を懸けて積み上げてきた答えを出す。その緊張感は、大きな魅力につながりますね。

――自身でこれまで印象に残っているフィギュアスケート取材は、どの大会でしょうか?

小宮:どの大会も、それぞれドラマがあったと思います。2006年のトリノ五輪は、現地で観戦して荒川静香さんの金メダルを目撃できたことに、大きな幸せを感じました。連日取材を続けるなか、日本代表選手がどの競技でもメダルをひとつも取れていなくて、どうなってしまうのかと不安だったんですが、荒川さんが見事に金メダルを勝ち取ってくれました。また、男子ではロシアのプルシェンコ選手が圧倒的な強さで優勝した姿が衝撃で、自分の心に強く焼き付いています。

――印象に残っているスケーターの言葉や出来事はありますか?

小宮:ひとつには絞れません(笑)。でも、2018年の全日本選手権から2019年の全日本選手権までの宇野昌磨選手の1年間の戦いには、とても感銘を受けました。2018年大会は、怪我もあって演技が満足にできる状態ではなかったようですが、それをおくびにも出さず、完璧に近い滑りで頂点に立ったんです。

――宇野選手の戦いが魅力的だったと?

小宮:そうですね。その時は、高橋大輔選手の記事を特集号で書く予定だったのですが、どうしても宇野選手についても書きたいと感じました。宇野選手の記事は、結果的に1ページだけだったのですが、「もっと読みたい」と言ってくださる読者がたくさんいました。そのおかげで、その後、宇野選手についても原稿を書くようになりました。そして彼自身、コーチ不在の状況になるなど苦難を経験するなか、2019年の全日本選手権でも劇的な優勝を遂げ、四連覇を果たしたのです。本当に楽しそうに演技をしていて、いまにも笑顔を浮かべそうなほどでした。強い選手とはこういうことを言うのだなと衝撃を受けました。その姿を現場で見られたことは、書き手としてとてもインスパイアされました。それが今回の作品にもつながっていると思います。

小宮良之『氷上のフェニックス』(角川文庫)
小宮良之『氷上のフェニックス』(角川文庫)

――小説『氷上のフェニックス』を書き終えて、見えてきたことはありますか?

小宮:今は「よく一冊になったな」という感慨で精一杯です(笑)。でも、この作品が多くの方に読まれ、感想などをもらったら実感が湧いてきて、続編など次の作品を書きたい、という気持ちになるのかもしれません。翔平たちの物語には、まだ続きがありますので。そして、改めてアスリートへの感謝の気持ちも生まれました。取材現場で選手に出会えて、その風景を見たからこそ、小説として書くことができたと思っています。

――改めて、フィクションとノンフィクションの違いはどこにあると感じていますか?

小宮:書き方は、それほど変わりませんね。フィクションは「勝手に話を作ることができる」という人もいるでしょうけど、キャラクター設定、ストーリー構築など、制約がないからこそ、難しい。一方でノンフィクションは、取材やインタビューをすることで、それが素材になりますが、そこにいきつくまでの選手との関係性の構築には時間がかかりますし、インタビューで本音を引き出す技術、経験も必要になります。自分のノンフィクションの書き方は、脚色されているように受け取る方もいて、なかには苦手な読み手もいると思います。でも逆に、「事実を丹念に描いて、心に伝わってきた」と言ってくれる方もいます。尊敬する作家である重松清さんも、小説もノンフィクションも書いていらっしゃいますが、どちらを書いてもそれぞれ良い影響を与えられるような活動をしていきたいと思っています。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

小宮:今はとてもドキドキしています。精魂込めて書いた作品ではありますが、みなさんに受け入れられるかどうか。本当に期待も不安も半分ずつです。今年はコロナ禍で生活に大きな制約が生じ、将来に見えない不安も覆い、大変な思いをしている方も少なくないはずです。フィギュアスケートも、海外の大会は軒並み中止になり、国内でも無観客の試合が続きました。フィギュアスケートファンは、日常を奪われた辛さで、みなさん大変な1年だったと思います。その喪失感はフィクションでは埋まらないかもしれませんが、慣れ親しんだその熱気の一部を少しでも感じてもらえたら嬉しいですね。作品の中にある“もうひとつの世界”を楽しんでもらえたら、書き手冥利に尽きます。

▼小宮良之『氷上のフェニックス』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000930/

取材・文:編集部 

KADOKAWA カドブン
2020年12月17日 公開 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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