『それはきっと必要ない : 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』
- 著者
- 印南, 敦史, 1962-
- 出版社
- 誠文堂新光社
- ISBN
- 9784416517598
- 価格
- 1,540円(税込)
書籍情報:openBD
ライフハッカー書評家の、「仕事」と「人生」についてのシンプルな考え方
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
私ごとで恐縮ですが、今年は3冊の本を出すことができました。
まず最初は、4月に出した『書評の仕事』(ワニブックス新書)、次が7月の『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、そして3冊目が、今回ご紹介させていただく12月発売の『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)です。
これは、誠文堂新光社のサイト「よみものどっとこむ」で2017年1月から始まった同名連載をベースにしたもの。
タイトルからも想像がつくとおり、僕が「これは必要ないんじゃないかなぁ?」と感じたものについて、「本当に必要か、必要ないならどうするべきか」を考察したエッセイです。
特筆しておきたいのは、大幅に加筆修正しているということ。スタートから3年も経てば、いろいろなことについての価値観が変わっても当然。
そこで、「当時は取り上げる価値があったけれど、いまでは必要ないかもしれない」と思われる話題は削除し、逆に「これは新たに必要なんじゃないか」と感じたことを加えているわけです。
つまり、単なる過去の連載の焼きなおしではありません。新たにブラッシュアップされた作品として読んでいただけるのではないかと思います。
ところで、そんな本書についてライフハッカー[日本版]編集部からいくつかの質問事項をいただきました。
そこで今回はそのなかから2つの質問を選び、お答えしていこうと思います。
マルチタスクで仕事をためがち。どうしたらうまく手放せる?
経済状況が好転せず、人材不足も続くなか、たまっていく一方の仕事をどうすべきかと悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
「やらなければならない」のに「追いつかない」としたら、仕事だけでなくストレスまでもが積み上がっていくことは十分に考えられます。
また、そうでなくとも、ついつい仕事を「抱え込んでしまう」という人はどこの世界にもいるもの。
そして僕が見てきた限り、そういうタイプの人には次の3つの共通点があります。
1 真面目
2 完全主義
3 コミュニケーションが苦手
(10ページより)
そう、「抱え込んでしまう人」は真面目で完全主義なので、つい「人に頼む」よりも「自分でやる」ことを選んでしまいがちなのです。
相手に対して意図を伝えるのは簡単なことではありませんし、ましてやコミュニケーションが苦手なのであれば、それはさらに困難なものになるはず。
そのため「自分でやったほうが早い」「自分でやれば安心だ」という発想に至ってしまうわけです。
しかしそれでは、必要以上に大きなストレスを抱え込んでしまうことになります。
しかも、「自分でやったほうが早い」という考え方は主観でしかありません。そう考えることで一時的には楽になるかもしれませんが、とはいえ解決にはなりません。
それどころか、結果的には逆に周囲に迷惑をかけることになってしまうことすらあり得ます。そういう意味でも、抱え込まないほうがいいのです。
だとすれば、どうしたらいいのでしょうか?
答えは、意外とシンプルだと僕は思います。
抱え込むのではなく、「自分だけでやれるはずがない」と認めてしまえばいいのです。
苦しくなるのは、「完璧にこなさなければ“いけない”」と断定してしまうから。
でも、そもそも人間は不完全であり「できなくて当然」。だからそれを認めたうえで、「じゃあ、どうしたらいいのか」と考えるべきなのです。(14ページより)
実は、僕もかつては「抱え込んでしまう人」でした。
そのため多くの失敗をしてきましたが、ある時点で自分のマイナス部分を認めた結果、気持ちがとても楽になったことを覚えています。
そして、それ以降は「○○さんに相談してみようかな」などと考えられるようになり、滞りがちだった仕事が円滑に進むようになったのでした。それでも完璧にはほど遠かったものの、かなり改善できた気がしたものです。
そんな(失敗を含めた)。経験があるからこそ、「抱え込んでしまう」人には「手放してみましょうよ」と提案したくなるのです。
コロナ禍で心が落ち着かない。そんなときの心の持ちようは?
新型コロナは、僕たちの生活を根底から覆しました。
生活様式がガラッと変わっただけに、「今後、どうしたらいいかわからない」と悩んでいる方も多いのではないかと思います。
なかなか“答え”の見つからない問題ではありますが、こういう状況であるからこそ、「いかに穏やかに生きていくか」について考えることが大切なのではないか。
少なくとも、僕はそう思っています。
そこでこの問いに対しては、第5章「その『メンタル』は必要ない」のなかから次の一文を引用してみたいと思います。
これは「生き方」についての僕の考え方。なにをやっても達成感を味わえなかった若いころを経て、いま感じていることを綴った部分です。
最近の僕の人生についての考え方はいたってシンプルです。
「きのうと同じきょうを過ごす」ことこそが、なにより重要だということ。
「そんなの当たり前だろ」といわれるかもしれませんが、当たり前のところに立ち戻ってみると、いろいろなことが見えてくるのです。(178ページより)
たとえば、文章を書くことを仕事にしている僕の場合、「きのうと同じきょう」はとても地味なものです。
朝すべきことを終えたら、なるべく早い時間から仕事を始め、お昼を食べたらまた仕事。
疲れてきたら外に出て気分転換をし、夜は家族と食事をして晩酌。そして、なるべく早めに就寝するーー。
出かける用事がない限り、だいたいそんな感じ。華やかでもなんでもなく、当たり前すぎるほど当たり前なのです。
そんな当たり前の、地味で静かな日常が、どれだけ大切か。
それがようやくわかるようになったのです。
そのため、いまなら自信を持って「身の丈に合った生き方がいちばん自然で、そして意義のあることだ」と断言できます。(179ページより)
この文章を書いたのはコロナ禍が訪れる前で、あくまで自分にとっての一般的な考え方を綴ってみたに過ぎません。しかし、こういう状況下において、これはことさら重要な価値観だと言えるのではないでしょうか?
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手前味噌ながら、肩肘を張ることなく気楽に呼んでいただける一冊に仕上がったと自負しています。
新型コロナの影響で外出もままならない状況だからこそ、暖かい室内でリラックスして読み進めていただければ幸いです。
Source: 誠文堂新光社
Photo: 印南敦史