<東北の本棚>鋭敏な感覚で日常表現
[レビュアー] 河北新報
福島市の俳人が初の句集を出版した。昨年までの36年間に書いた作品の中から320句を収録。家族や動植物、旅など、日々の生活の一こまを鋭敏な感覚で切り取り、独自の美の世界をつくり出している。
序文を寄せた高野ムツオ氏が指摘するように、句集を貫くテーマとして「孤影と父母追慕の思い」が挙げられよう。永眠した母をうたった<隠り世にコスモス摘んで居給ふか>など、両親の影を追い求めて詠んだ句から著者の孤独が見えてくる。
本人に大きな影響を与えたのが、東日本大震災と原発事故。<言葉虚しつくしんぼへ屈むばかり>は事故直後の無力感を表し、<仮置き場仮仮置き場鳥雲>は除染土の仮置き場の光景を詠んだ。当初は重い雰囲気の句が多かったが、次第に明るさを持つ句も見られるようになった。
印象的な句の一つが<メメント・モリ メメント・モリと粉雪降る>。メメント・モリは「自分が必ず死ぬことを忘れるな」という意味。静寂なイメージの中に、読者はさまざまなメッセージを受け取るに違いない。
著者は1944年伊達市生まれ。加藤楸邨氏に学び、福島県俳句賞、同県文学賞などの受賞歴がある。小熊座同人、暖響同人。(裕)
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青磁社075(705)2838=2200円。