西洋音楽が日本で受容される前提には、文明開化期の太陽暦への移行があった。時間が伸び縮みする不定時法からの脱却だ。まずこの指摘に意表をつかれる。次いで軍事制度の一部として、リズムとテンポのある西洋音楽が移入される。当時の日本人は足並みをそろえて行進できなかったからだ。
異物だった西洋音楽は、大正教養主義という潮流のなかで教養に変容する。そして関東大震災から大東亜戦争という苦難の時代、教養をもつ人々に「神の啓示」のような励ましを与えたのが「第9」だった。ベートーベンの受容を軸にした斬新な文化論だ。(新潮新書・820円+税)
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2020年12月20日 掲載
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