ストロング系の常飲はハイリスク。アルコールと依存症に関する5つの誤解
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
年末年始は、お酒を飲む機会が増えてしまいがち。そのため、体の不調を感じることもあるかもしれません。
『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(垣渕洋一 著、青春出版社)は、そうした不安を感じている方や、親しい人の飲酒問題に直面している方などに向け、生活の質がすぐ向上する知識と術を伝えるために書かれた書籍。
本書の最大の目的は、お酒による害をゼロにすることです。
そのためには禁酒を目標としますが、これまでの習慣や人づき合いなどから、「完全に断つのはどうしても難しい」あるいは、「ゼロではなく、十分に害が減ればそれでいい」という場合もあるでしょう。
そのような方には、徐々に飲む量を減らしていく減酒を目標とする方法をご紹介します。
可能な限りお酒を手放すことを目指すとしても、健康に害のない範囲でお酒とつき合っていく、という道もあることを覚えておいてください。(「はじめに “お酒のない人生”を選び取ろう」より)
著者は、東京アルコール医療総合センター・センター長。成増厚生病院副院長、医学博士。
「アルコール依存症の回復には行動変容が重要」だという信念のもと、最新の知見を応用した治療を行い多くの回復者を送り出しているのだそうです。
きょうはそのなかから、2章「今のうちに知っておきたい『危険なサイン』」に焦点を当ててみたいと思います。
“ハイリスク者”はごく普通の会社員のなかにいる
強い人から弱い人まで、お酒の飲み方や考え方は人それぞれ。そんななか、著者は「アルコール依存症予備軍」に位置づけられる人々に注目しています。
読者のなかにも、そのような人が少なからず存在するというのです。
日本のアルコール依存症者の数はおよそ100万人ですが(厚生労働省調べ)」、「アルコール依存症疑い」(約300万人)と「問題飲酒者」(約600万人)を合わせた「依存症予備軍」は推計900万人です。
また、これに「生活習慣病のリスクを高める飲酒者」(約1000万人)を含めた約1900万人もの人が、「ハイリスク飲酒者」(グレーゾーン、プレアルコホリック)です。(64ページより)
同じグレーゾーンといっても、ローリスクに近い人から、「もう一歩で依存症」という予備軍まで幅広く、副作用の表れ方もさまざま。
ごく普通に見える人のなかにも、ハイリスク者やすでに依存症まで進行している人がいるのだそうです。
ところが問題は、「自分はちゃんとしているから大丈夫」だと、本人も周囲も気づいていないケースがあること。「ちょっと変だ」と思いながら、なにも対策をしていないことが少なくないというのです。(64ページより)
アルコールと依存症に関する5つの誤解
アルコール依存症は、誰にとっても身近な問題。ところがこれまで、「自分とは無縁のこと」と思われがちでもありました。
そこで著者は、自身の旧常識を新常識に更新しておく必要性を説いています。ひとつひとつを確認してみましょう。
×「中年のオヤジがなる病気じゃないの?」
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○若い女性でもなる
アルコール依存症は中年男性の病ととらえられがちですが、実際には20〜30代の若い層にも多く、最近は若い女性が治療するケースも目立っているのそう。
その原因は、ストロング系飲料の存在。飲みやすさとは裏腹にアルコール度数が高いため、気軽に飲み続けるうちに多量飲酒に移行しやすいわけです。
×「薄汚い服を着て、一升瓶抱えて手をふるわせながら飲んでいる人のことでしょ?
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○10人依存症者がいれば9人は自分が病気だとは思わず、職場や家庭で役割を果たしている
実は、一見して「アルコール問題」を抱えていることがわかるような依存症者はごく一部。
9割の人は病気の自覚がないまま、それぞれの社会的な役割を果たしているのだそうです。裏を返せば、9割の人に治療を受けないまま重症化させてしまうリスクがあるということ。
×「アル中とアルコール依存症は違う病気だ」
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○これらは同じ病気で、以前「慢性アルコール中毒」と呼ばれていたものが、「アルコール依存症」に変わっただけ
違う病気だと思っている人はまだ多く、著者も患者さんから「俺は依存症だけど、アル中ではないから」「アル中よりはまだマシで」などと聞くことがあるそう。
そんなときには、「ドングリの背比べですね」と返しているといいます。
×「依存症になっても、治療を受ければまた程々に楽しんで飲めるようになる」
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○一度依存症になったら生涯治らないと考えるべき。飲酒を続けて死ぬか、禁酒して回復するかの二者択一
「依存症になっても、治療すればまた飲めるようになる」というのは大きな誤解。
いったん依存症まで進行するとまた飲める状態の戻ることはなく、禁酒してシラフで生活できるまで「回復」することが治療のゴールになるのだといいます。
ただし依存症の手前であるハイリスク飲酒の段階なら、程々の酒量に抑えて飲む状態に戻ることは可能。
×「依存症はお酒さえ飲まなければ問題ない」
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○合併症については、重度でなければお酒さえ飲まなければ回復できるが、メンタル面の問題は、考え方、生き方を意識し、努力して直し続けてこそ解決できる
依存症が進行すると、「飲んでいれば幸せ」という思考に流れていくもの。
専門的にはそれを「酔いの思考」と呼ぶそうですが、お酒をやめるだけだとそういった不健康な思考は変わらず、むしろ抑うつ状態から自己憐憫のモードに入ってしまって危険。
「一生懸命働いてきたのに、好きなお酒も飲めないなんて自分はかわいそう」「あいつのせいでお酒の量が増えた」など、被害妄想に陥りやすいわけです。
精神面の治療のゴールは、禁酒して「シラフのほうが幸せ」という思考や生き方にシフトすること。
そのためには、自分でアルコールの悪影響を理解して、酔いの思考を改める努力をし、治療や支援を受けながら調整することが大切だといいます。(75ページより)
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本書を参考にすれば、リバウンドなしで禁酒を成功させることができると著者は断言しています。
生活習慣を改めるためにも、あるいは目先の問題としてお正月に飲み過ぎないためにも、読んでおくだけの価値はありそうです。
Source: 青春出版社
Photo: 印南敦史