現代手芸考 上羽陽子・山崎明子編 フィルムアート社

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現代手芸考

『現代手芸考』

著者
上羽陽子 [著、編集]/山崎明子 [著、編集]
出版社
フィルムアート社
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784845919116
発売日
2020/09/26
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

現代手芸考 上羽陽子・山崎明子編 フィルムアート社

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 手芸、と聞くと、ほんわかとした気分になる。反して、現代美術のギャラリーで「これって手芸レベルではないか」と憤慨することもある。そんな時私は、昭和40年代に母が編んでくれた「毛糸のハーモニカ・ケース」を思い浮かべている。はてさて、手芸とは、なんだろう。

 本書は、共同研究「現代『手芸』文化に関する研究」をまとめたもの。手芸的なるものがどのように生み出され、消費され、各時代の社会においてどんな役割や機能を備えているかを探り、ものづくりの意味を考える。研究会メンバーの専門は、文化人類学、ジェンダー研究、美術・工芸史、経営学、さらには、現役の現代美術作家など多岐に亘(わた)る。結論をいうと、本著で「手芸」の確定的な定義はなされない。しかし、そこにせまる道筋は面白く、わくわくする。六つの章につけられたタイトル「つくる」「教える」「仕分ける」「稼ぐ」「飾る」「つながる」を見れば、どのような角度から手芸を捉え、考察しているかの想像がつくのではないか。

 手芸という言葉は、明治期の女子教育の科目名として登場した。後に、実用的な「裁縫」ではなく、編物、刺繍(ししゅう)、造花など生活を彩る針仕事を指すようになる。戦後の高度経済成長期には、無味乾燥な部屋で帰りの遅い夫を待つ主婦達(たち)の「団地ノイローゼ」回避に、手芸が推奨されたそうだ。最近、手芸はハンドメイドと呼ばれるようになり、インターネットの販売サイトは、空前の盛り上がりを見せる。もはや、手芸は女性だけのたしなみでも趣味でもない。ハンドメイド作家はイメージのよい流行の仕事だ。

 現代美術作家・野田凉美は手芸・工芸・アート・プロダクト、各層の特性をはぐらかしつつ重ね合わせて作品を作る。まさに、アーティストの仕事といえるだろう。蘆田裕史による各層ヒエラルキー論考も大変興味深い。

 技術に語らせず、思いを伝える。そんな昭和の手芸を懐かしく思いながら、本書を読んだ。

読売新聞
2020年12月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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