美学 小田部胤久著

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美学

『美学』

著者
小田部 胤久 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784130120647
発売日
2020/09/14
価格
6,050円(税込)

書籍情報:openBD

美学 小田部胤久著

[レビュアー] 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 美学の基本書となるのがカントの『判断力批判』である。だが極めて難解である。本書はカントの文章を親切に解説し、美学の歴史と基本概念をも精密に教えてくれる。

 美学は、美しいと判断する趣味判断を主題とし、その判断の分析に向けられている。美とは概念ではないから「美とは何か」への答えはあり得ない。美学の中心は「美とは何か」への問いではないのである。

 美は個々の事物に宿るのではなく判断の形式に宿る。この世に美しいものが何一つないとしても、美学は成り立つ。美は理念である。だからこそ、美は世界の中心に位置することができる。カントの語る理念は可能性への祈りとしてある。

 美的判断とは想像力と知性の自由な活動に由来する快に基づく趣味判断である。このことはカント美学という大きな概念装置の仕組みを把握してこそ理解できる。

 カントの考えは様々に理解(誤解)されてきた。著者は、歴史的背景を探り、古代からの流れを解説し、さらにカント美学が現代に至るまでの理解のされ方を、芸術の流れと対応させながら、広汎(こうはん)に説明する。

 アリストテレス、ドゥルーズ、アーレント、数多くの思想家の美学がカント理論の前提や影響史として紹介されながら論述は進み、絢爛(けんらん)豪華たる気配がある。

 話題も豊かだ。社交性や普遍的伝達の可能性の問題、趣味や快適とは何か、崇高さがどう絡むのか、など重要な問題も論じられる。450頁(ページ)程の大著ながら読み進んでしまう。

 美とは何かを知りたいという願望で読み始めながらも、その期待を転倒させ、新しい光景を見せてくれる。

 本書はカント美学への愛を静かに熱く語る。大哲学者の美学は今も、いや常に新しく鮮烈である。永遠の古典カント読むべし。

 古代から現代に至るまでの様々な美学論をオーケストラのように配置して、一つの美学として演奏する指揮者の姿が本書の著述から浮かび上がる。私はブラヴォーを叫びたい。

 ◇おたべ・たねひさ=1958年生まれ。東京大教授。著書に『西洋美学史』など。

読売新聞
2020年12月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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