真木悠介の誕生 人間解放の比較=歴史社会学 佐藤健二著 弘文堂

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真木悠介の誕生 人間解放の比較=歴史社会学

『真木悠介の誕生 人間解放の比較=歴史社会学』

著者
佐藤健二 [著]
出版社
弘文堂
ISBN
9784335552021
発売日
2020/11/06
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

真木悠介の誕生 人間解放の比較=歴史社会学 佐藤健二著 弘文堂

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 真木悠介は、社会学者・見田宗介(1937~)の筆名である。近代以降の日本社会を解きあかす、クリアな図式と、魅惑的な美しい文体により、ともに、多くの熱い支持を得てきた。

 本書は、彼の教え子による評伝、ではない。

 ほぼ同じ分野を扱うにもかかわらず、なぜ、真木悠介という別の名前をつかってきたのか。謎をとくために、見田=真木の書いたものを、本はもちろんビラやメモまで博捜しつくす著者のことは、書誌社会学者とよぶべきだろう。

 著者は、民俗学者・柳田國男の全集編集委員も務めるのだから、あたりまえのように見えるけれど、並大抵の仕事ではない。私淑する師との距離を保ちながら、戦後日本社会学史だけでなく、社会学とは何か、社会とは何かを考えるために大切なヒントを、いくつもちりばめる。

 1960年に見田名で書かれた「純粋戦后派の意識構造」から、戦争や世代の意味をすくいあげる。データのあつかいをめぐる安田三郎との「論争」からは、研究方法を問いなおそうと試みる。本書の副題にある「人間解放」こそ、すでに著名な見田の名から「家出」し、自分を解き放とうと真木の名を生むみなもとであり、1968年から翌年の大学闘争での、学問への問いかけにたいする答えだとあきらかにする。

 「人間解放」とは、自前のことばを再生し、いくつもの秘められた可能性を存分に発揮するための主題である。同じく副題の「比較=歴史社会学」は「無数の無名の人びとの一回かぎりの人生のひしめきあう『総体』としての社会であり、歴史」を読みとく作法であり、闘争時の「あだ名」=「恐怖の全肯定男」につうじる。

 あらゆるところに明るさと希望を見いだす。その姿勢を著者は引きついだから、本書は、論と注の、驚くべき細やかさと丁寧さとともに、深いやさしさにあふれる。『時間の比較社会学』などの真木読者だけでなく、生きることに向きあうすべての人に、心からおすすめする。

読売新聞
2020年12月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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