<東北の本棚>あらゆる場面で気配り

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

伊達政宗の素顔

『伊達政宗の素顔』

著者
佐藤 憲一 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784642071192
発売日
2020/08/19
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>あらゆる場面で気配り

[レビュアー] 河北新報

 戦国時代から近世初頭にいたる激動の時代に仙台藩62万石を築いた伊達政宗は、どんな人物だったのか。現存する数多くの自筆書状から、元仙台市博物館長の著者が、政宗の素顔や人物像に迫った。
 全5章のうち、2章では、仙台藩を築いた頃の政宗について詳述する。政宗は関ケ原合戦後、仙台で本格的に国づくりを始めた。国を豊かにするため、政宗が領内に散在する荒れ地を家臣に耕作させることを提案した手紙が残る。「荒れ地の場合は、知行を2倍にするのはどうか。そちらの主張も申し述べよ」と自らの解決策を示した上で、家臣たちに検討させた。著者は「考えを一方的に押し付けず、家臣の意見を聞く政宗の行政姿勢が見える」と指摘する。
 政宗は、城下町住人の暮らしぶりにも目を配っていた。あるとき年越しに食べるタラが、年明けになっても出回らないと聞き、売り惜しみをせずに商いするよう浜の漁師たちに申し渡すことを指示した手紙がある。「担当役人に任せておけばよい問題でも、自分で指示し処理しなければ気が済まない性格。気配り・目配りは政治だけでなくあらゆる場面で発揮された政宗の持ち味」と著者は言う。
 3章では、家族や家臣との信頼の絆について言及した。正妻愛姫に宛てた手紙で現存するのは10通ほど。長女吾郎八姫が離婚し、愛姫のいる江戸の屋敷から仙台へ戻る際の手紙には「姫を手放すことになるさびしさはよく分かる」と妻を気遣う文言がつづられている。
 政宗は、家族や家臣らと絆を強めながら危難を乗り越え、常に前向きに生きた。この生きざまに、災害や疫病禍など幾多の困難を抱える現代人も学ぶことは多いだろう。
 著者は宮城県美里町出身。1971年、東北大文学部国史学科卒。(郁)
   ◇
 吉川弘文館03(3813)9151=2420円。

河北新報
2020年12月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク