『バイター』
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ゾンビと私 五十嵐貴久
[レビュアー] 五十嵐貴久
何だか青年の主張みたいなタイトルになってしまいましたが(今も「青年の主張」は行われているのだろうか?)『バイター』とは紛れもなくゾンビ小説であります。
かのジョージ・A・ロメロが創始した『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(NOLD)以降、世界中でゾンビ映画が作り続けられ、おそらくは私がこのような文章を綴(つづ)っている間にも確実に世界のどこかで誰かがゾンビ映画を撮っているはずで、そしてテレビドラマシリーズ『ウォーキング・デッド』は、私が死んでもまだ続いているのかもしれない。さすがゾンビであります。
しかしながら、日本においてはどうもゾンビ自体の存在が据わりが悪いと言いますか、どうしてもリアルにならない、という現実があります。私が『バイター』で目指したのは、「NOLD」以来の設定に則(のっと)り、日本における正統派のゾンビ小説を書くことにありました。
従って、本作は過去のゾンビ映画へのオマージュであり、切り貼りでもあります。他にも多くの映画からの引用がなされており、まったく新しいことはしていませんが(何の自慢なんだ?)、ハードルさえ下げて読めば(これは「ゾンビ映画」を観る時の作法でもあります)確実に面白い小説と自ら言わせていただきます。
思えば、連載が始まった時、誰もコロナ禍が起きるとは思っていませんでした。感染研という機関があることを知っていた人も少なかったはずです。本作におけるバイター=ゾンビは、ウイルスによって感染するという設定ですが、偶然とは恐ろしいもので、現実が小説と同じような状況になっている、と実感しています。
このようなキワモノを書いて良し! とした光文社編集部の皆様に感謝すると同時に、この五年で一番書いていて楽しかった小説(著者が楽しんではイカンのですが)であることを付記させていただきます。ぜひ、お読み下さいませ。