やっかいで当たり前な「家族」をやり直す 『だまされ屋さん』星野智幸

レビュー

3
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だまされ屋さん

『だまされ屋さん』

著者
星野 智幸 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784120053481
発売日
2020/10/21
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

やっかいで当たり前な「家族」をやり直す 『だまされ屋さん』

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

 自己責任論が強まる中、深刻な家族の問題も、事件化して初めてそのいびつさに驚くことが多い。いや、もともと「家族の問題は家族で」という意識の強い日本では、問題は内に籠もりがちだ。本書では、固い殻に覆われていた家族問題が、風変わりな闖入者によって殻が割れて顔を覗かせることになる。

 幕開けは、古希を迎えた秋代(あきよ)のもとに、娘の巴(ともえ)と〈家族になろうとしている〉と言い張る男性・未彩人(みさと)が訪ねてきたことだ。秋代は、長男の優志(やさし)、次男の春好(はるよし)、末っ子の巴とは疎遠で、古い公団でひとり暮らしをしている。未彩人の訪問をいぶかりながらも、長い孤独の寂しさからか、如才ない彼のペースにはまってしまう。娘が本当に再婚しようとしているのかどうかくらい、なぜ直接尋ねることができないのか。そこまで家族がバラバラになってしまった背景や現状が、秋代自身、優志や巴、春好の妻である月美(つきみ)などが代わる代わる語り手を務める中で浮かび上がってくる。

 秋代と三人の子どもとの関係だけでなく、子どもたちそれぞれも家庭は問題含み。ただ、そこで描かれる、DVや依存症、毒母、人種や性をめぐるマイノリティーへの差別は、昨今、特別なことではなく日常によくある問題として、家族にふりかかっていることの証左だと思う。それだけに、「誰が」「何が」悪いと犯人探しをしても解決しない。むしろ、未彩人や、巴の同居人である夕海(ゆうみ)といったある種の部外者が、膠着した家族関係に風を吹き込む。彼らの存在が作用して、シンプルに本音を見せ合っていくことで変わる可能性があることに目を瞠る。

 輪は閉じていくばかりではなく、開いて大きくしていくこともできる。つながりの新しい道筋を見せてくれた家族小説なのだ。

光文社 小説宝石
2021年1・2月合併号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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