多様性を尊重する姿勢を失わないための文庫3選

レビュー

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  • 破戒
  • 男と女の進化論―すべては勘違いから始まった
  • 超常現象

書籍情報:openBD

「絶対」はない

[レビュアー] 森田正光(気象予報士)


森田正光さん

森田正光・評「「絶対」はない」

多様性を尊重する姿勢を失わないために読書を続ける気象予報士の森田正光さんが選ぶ、新潮文庫3冊を紹介します。

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 人はその人でしかないし、自分のモノの見方しかできません。しかしながら本を通じて様々な視点を得ることができます。他者を許容し、決して自分の物差を押しつけず、多様性を尊重する姿勢を失わないため、私は本を読み続けています。

 その原点ともいえるのが『破戒』です。

 初めて手に取ったのは二十歳前後だったと記憶しています。いわゆる被差別部落の問題を扱った本で、読み終えたときには差別に対する怒りがふつふつと沸いてきました。なぜ生まれだけで人間が人間として扱われないのか。絶対にこんなことがあってはならない――。

 その後、何度となく読み返すうちに、 あくまで私の解釈ですが、『破戒』は告解の本ではないかと思うようになりました。

 私は本を読んでいて大切だと思った箇所は、ページを折って印をつけるようにしています。この本では折られたページ全てに「隠せ」という単語が出てきます。

 隠せ――つまり、自分の出自を隠し通して生きていけということです。

 誰しも秘密にしたいことはあるでしょう。他人から見れば取るに足らないことであっても、本人にとってはどうしても心に巣くう小さな罪。それを隠すのか否か。内なる罪を心に抱えて生きていくのか、それとも懺悔し、曝け出して生きるのか……。

 果たして人はどちらを選択するのか。主人公は告解の道を選びますが、私自身は隠すと思います。

 差別という社会的な矛盾だけでなく内なる罪とどう向き合うかを問うた本です。

 ところでハゲですよ。男にとって最大の恐怖は。『男と女の進化論』はその原因をはっきりと書いています。

 性欲が強い男はハゲやすい。なぜならこういう男性が自然に任せていると、扶養能力以上の子ができてしまうから。これを防ぐために頭皮の毛根付近の細胞がブレーキをかける。結果、女性から好かれなくなり、そういう機会が失われる。

 しかしながらお子さんもいらっしゃらないのに、危うくなっている男性も。こういったいわば「遺伝子のミス」を的確に指摘しているのがこの本の面白さです。純粋なサイエンスの眼を竹内さんによって開かされました。

 男ってね、哀しいんですよ。一割二割のモテる男性が総取りなんですから。本書では類人猿の乱婚や一夫多妻制について述べられていますが、人間はゆるやかな一夫一妻。本当によかった。すべての男に優しいシステムです。

 京都大学で動物行動学の王道を歩んだ方が、こういったユニークな本を描かれたことに価値があると思います。そして男だったら書けないです(ハゲとか辛すぎる)。読めば世の中が一歩進む本だと確信しています。

 しかし世の中には非科学的な現象が多々存在します。幽霊、テレパシー、超能力、生まれ変わり、臨死体験……。こういった「あるわけないよね」現象を『超常現象』で正面から取り上げたNHKは偉い。

 抜群に面白かったのは、バーニングマン。12メートルもの巨人像が燃やされるアメリカでのイベントを利用して、人間が最高に興奮状態にあるときの意識がパワーを持っているのか乱数発生器で計る。つまり「超能力」を人間が備えているのか、極めて科学的に計測するのです。

 果たして数値の乱れは発生します。人間は他者に影響を及ぼす何がしかの力を持っていることは確からしいのです。言霊という言葉もありますし、私たちはまだ科学では証明できていない不思議な能力を持っているのだと思います。

 今、私が一番興味を持っているのが量子。我々の記憶、意思は量子として存在し続けているのではないかとの説です。だから幽霊(生存時の量子の残存)、生まれ変わり(記憶の量子)、超能力(意識の量子)が存在してもおかしくない。バーニングマンはその片鱗を掴んだ実験だと思います。

 本書にはユリ・ゲラーが登場します。私はかつて彼の大ファンで、遥か昔、増上寺で行われたイベントにも参加しております。

 煌々とした会場でのショーは1時間。パッと会場が明るくなり、ハッと我に返ったところで終了しました。つまりイベントの最中、徐々に徐々に照明を落としていたのです。凄まじいトリック!

 断言します。ユリ・ゲラーはマジックです(笑)。

新潮社 波
2021年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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