<東北の本棚>野生動物の災害リスク

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

<東北の本棚>野生動物の災害リスク

[レビュアー] 河北新報

 市街地に姿を現したクマによる人身被害が増えている。冬眠期にもかかわらず人里に出没するクマもおり、昨年10月には秋田県藤里町で80代女性がツキノワグマに襲われ死亡した。
 本書は、福島県鳥獣対策専門官で長年国内の対策に携わってきた専門家による警告と提言の書だ。新型コロナウイルスを含め野生動物がもたらす「災害リスク」を重大な社会問題ととらえ、「被害が起きたら駆除するというこれまでの防除の在り方は、そもそも本末転倒」と警鐘を鳴らし、国全体での対策の必要性を説く。
 問題の要因は、過疎化と人口減少にある。かつてはどこの里山にもあった農村が、野生動物と人間の生活空間を分ける防波堤として機能していた。その存在が加速度的に縮小、あるいは消滅するに従い、法整備の不備も重なって問題が深刻化したと指摘する。
 著者が担当する東京電力福島第1原発事故に伴う避難地域では、イノシシがわが物顔で町中を闊歩(かっぽ)する。最大の警戒対象である人間が不在となれば、そこは魅力的なすみかとなる。同様の現象が全国の過疎地で起きている。
 「すでに始まっている問題」「国土計画の盲点」「解決に向けて」の3部構成。第1部では人口減少問題と野生動物問題の現状を報告し、第2部で人に害を及ぼす野生動物の侵入を阻むために必要な都市計画の具体例を提言。第3部は、問題解決に向けた社会システム整備の課題などを挙げる。
 野生動物の出没が、農産物被害で済んだ時代は終わった。人身被害や感染症など野生動物が人間社会に持ち込むリスクは年々高まり、自然災害とは異なる災害に我々は直面している。
 自然保護や鳥獣行政の関係者だけの問題ではない。「早く手をつけないと大変なことになる」と悲痛な警告を発する。(相)
   ◇
 地人書館03(3235)4422=2200円。

河北新報
2021年1月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク