<東北の本棚>特攻を題材に戦争問う
[レビュアー] 河北新報
旅情ミステリーの第一人者が書き下ろした人気シリーズ「十津川警部」の新作である。陸軍幼年学校出身で「軍国少年」だった90歳の著者が今回題材にしたのは特攻隊員。戦争の真相に迫ろうとする異色の推理小説だ。
物語は東京で旅行作家の男が刺殺されたことに始まる。警視庁捜査一課の十津川警部は男が訪れた東日本大震災の被災地、宮古市近郊の村に向かう。そこで目にしたのは津波で壊れた大きな石碑が故意に粉砕された跡だった。
仙台市の郷土史家に話を聞くと、石碑は戦時中の特攻作戦と関係があることが分かった。十津川警部らは基地があった鹿児島県に向かう。
読者を巧みに引き込むストーリー展開はさすが。歴史ミステリー、あるいは恋愛小説として読める。一方で、天皇で最初に神と呼ばれたという天武天皇、江戸末期に謎の死を遂げた孝明天皇、14歳で即位した明治天皇ら天皇の歴史に触れ、天皇と特攻隊員の関係について考察する。
作家は十津川警部にこう語らせる。「特攻はなかったほうがいいと思う。必要なかったとも思う。若者たちの死は、必要なかったのだ。もっといえば、戦争する必要はなかった」。特攻隊で命を落とした若者に対する作家の特別な思いが行間ににじむ。(裕)
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集英社03(3230)6095=968円。