『世の中と足並みがそろわない』
書籍情報:openBD
世の中と足並みがそろわない ふかわりょう著 新潮社
[レビュアー] 梅内美華子(歌人)
違和感が満載。
ふかわりょうのエッセイ集は世の中の現象や慣習化されたものに妙なこだわりで立ち止まる。皆が得意げに使っている略語、多くを楽しめるサブスクリプション、濫発(らんぱつ)される「かわいい」、プログラムにアンコールまで書いてあることなど。日本人の国民性を考察するものから、え、そんなことまで?のレベルまでアンテナが張り巡らされている。
〈私には、略す資格がない〉〈放題地獄〉〈しておきましょうか詐欺〉〈便利の果実と、わざわざの果実〉……
違和感を分析する理屈っぽい文の途中に凝縮されたフレーズが挟まれる。唐突で、謎めいていて、異なる分野の語を突き合わせた異物衝突感のある言葉たち。それが不器用な自分、変に熱い他者に向けられたスパイスとなっている。思考停止のまま流されてゆくことへの警戒感と自分を守る防御装置のようであり、良いことも凹(へこ)むことも距離をもって眺められる。この距離感がふかわりょうなのだ。また〈憧れだけでなく、どこかで自分を脅かさない、自分の劣等感を刺激しないものに対して、「かわいい」という言葉が向けられている気がします〉と自分が棲(す)む世界の酷薄さも見極めていて奥深い。
筆者の思い入れと世界観が感じられる「溺れる羊」はアイスランドの旅の話である。人間に改良されて毛が重くなったためか、羊は転倒すると自力で起き上がれず窒息してしまうという。自身の手で助けたことが契機となり、仰向(あおむ)けになってバタバタしている羊を遠くからでも見つけられるようになった。羊救助員となった著者は、命のためのピュアな違和感アンテナとして使命感に満ち荒涼とした草原を生き生きと駆けまわる。〈そのまま骨になって地面に吸収されている羊もいました〉〈皆、流れる雲を眺めながら、草原に溺れていきます〉。何て詩的で哲学的なんだろう。