スマホで見る阪神淡路大震災 災害映像がつむぐ未来への教訓 木戸崇之著

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スマホで見る阪神淡路大震災

『スマホで見る阪神淡路大震災』

著者
木戸 崇之 [著]/朝日放送テレビ [著]
出版社
西日本出版社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784908443565
発売日
2020/12/24
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

スマホで見る阪神淡路大震災 災害映像がつむぐ未来への教訓 木戸崇之著

[レビュアー] 隈元信一(ジャーナリスト)

◆QRコードで当時の映像へ

 一九九五年一月十七日、阪神淡路大震災が起きた。スマートフォンなどはなかった時代、映像を撮り続けたのはテレビ局だった。貴重な記録を後世に伝えようと、大阪の朝日放送は昨年、映像アーカイブをつくり、ウェブで公開した。

 このプロジェクトを主導した記者が、スマホやタブレットで映像を見るためのガイドブックとしてまとめたのが本書である。「大地震発生」から「再生への動き」まで、被害の状況、被災者の様子、取材・報道の足跡を追う。

 その折々の記述に必ずQRコードをつけてある。スマホで読み取れば、映像が出てくる仕掛けだ。ウェブ公開されている二千クリップから二割弱を抜粋、文字と映像で当時を振り返ることができる。

 単に映像へと導く本ではない。映像の裏にある「時代背景」を文章できちんと説明しておかないと、時がたてば理解できなくなってしまう。だから、四百年後の人にも伝わる映像解説の「古文書」を目指し、社会の様相などを詳しく書いたという。 

 すでに時代の変化は激しい。あの震災を知らない学生たちに映像を見せた時の反応が紹介されている。「これが、二十五年前の神戸で本当に起こったことなのか」「避難所の中の映像を普通に取材できていることが凄(すご)い」……。

 震災時、報道への拒否反応は小さかった。その後、プライバシーや肖像権への配慮が厳しく求められる時代になった。人物が映った映像は使わないような空気が報道現場に広がる中での映像公開、本書出版の勇気をたたえたい。

 あの震災は「『テレビカメラ』が中心となって動画を撮影した、最初で最後の大災害」だったという自覚が本書を支えている。確かに一九五九年の伊勢湾台風はテレビがまだ普及していなかったし、二〇一一年の東日本大震災は市民が携帯電話で撮影した映像がたくさん残った。

 都市型災害の記録としても貴重だ。首都直下地震などが懸念される今こそ、あまりに大きかった犠牲を決して無駄にしない「リアルな教訓」につながるのではないか。

(西日本出版社・1650円)

1972年生まれ。朝日放送(大阪)記者。3・11で「古文書が語る巨大津波」を制作。

◆もう1冊

小田桐誠著『福島第1原発(イチエフ)事故後10年 テレビは原発事故をどう報道したか 3・11の初動から「孤立・分断・差別」そして「復興」フェイクまで』(秀和システム)

中日新聞 東京新聞
2021年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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