『こどもホスピスの奇跡』
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【聞きたい。】石井光太さん 『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』 残された時間を「深く生きる」
[文] 産経新聞社
貧困や児童虐待など社会問題をテーマにノンフィクションを数多く手掛けている作家の石井光太さん。本書では、重い病を抱え余命の短い子供とその家族が残された時間を「深く生きる」ための施設「民間小児ホスピス」を取り上げた。
小児がんなど子供の難病治療にあたる医療現場では長年、病院の倫理や慣習が優先されてきたという。
子供は亡くなる直前まで手術や抗がん剤を投与され、苦しみながら息を引き取る。24時間の付き添いが求められる家族は疲弊し、崩壊する-。
そんな現状を目の当たりにしてきた医師や看護師らが、子供向けの緩和ケアを導入しようと立ち上がる。平成28年には日本初の民間小児ホスピス「TSURUMIこどもホスピス」(大阪市)が誕生。石井さんは尽力した医師らに取材を重ね、その軌跡を記録した。
「患者の子供たちにとって勉強が生きるエネルギーになるという院内学級の先生の話が印象的でした。病院で過ごす子供たちの見えている世界を知ることは、私たちが当たり前に享受していることを見つめ直すことにもつながる」
石井さんは患者の子供に「うちのおもちゃを見に来てほしい」とせがまれたことが忘れられない。「自宅で遊ぶという普通の子としての生活が何よりの願いだというのが、痛切に伝わってきた」という。
民間小児ホスピスでは、死期の迫った子供が、看護師らに支えられながら、つらい治療や面会制限といった病院の規則からも解放され、家族や友人とピクニックやキャンプ、パーティーなどを体験できる。家族も子供との別れにしっかり向き合える。
欧米では寄付文化を背景に数多く存在するが、日本では各地で設立を目指す動きが出てきたばかりだ。
「まずはこの本で難病の子供たちが置かれている状況を知ってもらい、社会の支援が広がれば」(新潮社・1550円+税)
篠原那美
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【プロフィル】石井光太
いしい・こうた 昭和52年、東京都出身。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動をしている。ノンフィクション作品に『本当の貧困の話をしよう』など多数。